「うるさいなって言っちゃったんです」 

それでも臼田容疑者がこのように思うことを伝えていたのは、父との関係が良好だったからだ。だが震災から数年後、二人の関係が大きく揺らぐ。

「2人で私の実家の長野へ行く機会がありました。向かう道中の列車の中で、隣に座った息子がいろいろ話しかけてきて、私がわずらわしいから『うるさいな』って言っちゃったんです。そうしたら息子は態度が急に変わり、次の駅で降りて家に帰ってしまいました。

その日から彼の様子は変わりました。私のうっかりした一言が引き金になり、彼はPTSD(心的外傷ストレス障害)になったんだと思います。昔のこと、継母から虐待された記憶が一気に戻ってきて、涙が止まらなくなったり…。診断は受けていないですが、あれはPTSDです。もうちょっと丁寧に接してやればよかったと後悔しています」

親子の会話は徐々になくなっていった…(撮影/集英社オンライン)
親子の会話は徐々になくなっていった…(撮影/集英社オンライン)

篤伸さんは臼田容疑者に謝り、臼田容疑者の変調が続いたり進んだりすることはなかったという。だが、この日を境に二人の間のコミュニケーションはがらりと変わったようだ。

篤伸さんは取材中「(息子に)強く言って家庭内暴力になったら怖いしね。息子を怒らせないようにするというのが私のやり方ですから」と口にし、息子の機嫌を損ねないよう様子をうかがいながら声をかけてきたことをうかがわせた。

幼少期の臼田容疑者が後妻の虐待を受けていることに気づいてやれなかった上に、それから40年ほど後になって不用意な言葉で虐待の記憶を呼び覚まさせてしまったとの深い悔恨を篤伸さんは抱いているようだった。

そしてその気持ちから、臼田容疑者に「一切口出ししない」状態が始まった。数年後、家には今回の事件でガソリンを入れるのに使われたポリタンクや火炎瓶の材料が集まり始めたのだった。

記者に息子との“距離”について後悔する父親(撮影/集英社オンライン)
記者に息子との“距離”について後悔する父親(撮影/集英社オンライン)
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班