ウェブメディアの大波乱「サードパーティクッキー廃止」 

またネットワーク広告にとって重要な「サードパーティークッキー」をめぐり大きな動きも出ている。サードパーティークッキーとは「広告企業などがサイトを横断して消費者のウェブ閲覧履歴を集めるのに使う。利用者の関心や属性に応じた広告配信を支えてきた」(日本経済新聞2024年4月24日「Google、サードパーティークッキーの24年内廃止を延期」)ものだ。

ウェブメディアで氾濫する「変な広告」の正体…なぜ記事を読みたいのに動画を視聴させられるのか「このままだと、ヤバい」_4
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つまりウェブ閲覧履歴を収集して最適な広告を出すツールといえるが、プライバシー保護の観点から批判が高まり、「米アップルの『サファリ』など、競合するブラウザーはすでに初期設定でサードパーティークッキーの機能を全面禁止」(同)した。

グーグルでも自社ブラウザ「クローム」での使用について、もともと2024年内に廃止する計画を進めていたが、その後方針変更を発表。サードパーティークッキーは残しつつ、ユーザーに選択を委ねる形に変えていくという。

この、ウェブメディアで読者に合わせた広告の配信を可能にするサードパーティークッキーの廃止や変更により、すでにネットワーク広告では収益の伸び悩みや減益という大きな影響が出ているが、クロームが使用中止をせずとも仕様を変更すればさらに収益は悪化するだろう。

それに対して現在収益を伸ばしている動画、SNS、検索はいずれもファーストパーティークッキーを活用したものだ。つまり、自社サイト内で獲得したユーザーの属性情報を広告に使っており、サードパーティークッキーと違ってサイトをまたいでのトラッキングはウェブメディアほどそこまで重要ではない。

だからこそ、自社でユーザーが関係するようなユーチューブ、各SNSなどはサードパーティークッキー廃止の流れによる影響はそれほど大きくない。要するに、広告はファーストパーティーデータを持っている巨大メディアへ流れている。

また、ディスプレイ広告、中でもウェブメディアのネットワーク広告の広告効果を懐疑的にみる広告出稿者が増えているとされることも、今後の先行きを不安にさせている。 

つまり、PVは伸び悩んでいるのに、1PVあたりのもらえるお金も下がっている状況なのだ。

経済系ウェブメディア「広告単価が回復しないと、会社経営的にもまずい」

ウェブメディアのPV数とは、ざっくり次のような式で考えることができる。

 1カ月の総PV数=1記事あたりの平均PV×1カ月の配信記事本数
記事本数=編集部員数×一人あたりの平均出稿本数

この計算式には当然、トップページや前月以前に配信した記事のPVなどは含まれていないが、最新情報を配信し続けるフロー型メディアは新しい記事を出し続けることによってPVを獲得するので、最新記事以外はここでは無視する。

本来であれば、媒体としては平均PVを保ったまま配信本数を増やしてメディアを成長させたいところだ。しかし市況の変化により平均PVは落ち込んだ。 

経済系ウェブメディアの広告担当者は「このまま広告単価が回復しないと、会社経営的にもまずい」と明かす。コストばかりかけても売上があがらない、もしくは維持のような状況になってきているのだ。

文/鈴木聖也

最近のウェブ、広告で読みにくくないですか?
鈴木 聖也
最近のウェブ、広告で読みにくくないですか?
2024/10/23
1,430円(税込)
192ページ
ISBN: 978-4065373774

新進気鋭のウェブメディア編集長が語る、ウェブの現在地と未来予測

一見華やかで先進的なウェブメディアの世界だが、その実態は広告費や閲覧数を稼ぐための泥臭い努力にあふれている。読者のみなさんも、記事本体を埋め尽くす勢いの過剰広告や閲覧数稼ぎのページ分けを見たことがあるはずだ。しかし、こういったメディアの細工は読者にストレスを与え、読みにくくするばかりである。本書では、広告費と閲覧数に頼らないメディアを目指し、2年で異例の黒字化を遂げた『みんかぶマガジン』編集長が、現在のウェブメディアが抱える問題点とその打開策、さらには経済的独立とジャーナリズムを両立させるためのウェブメディアの未来戦略を現場の視点から分析していく。

*本書目次
はじめに

第1章 ウェブメディアの現在地
最近、ネットで「変な広告」増えていませんか?
2021年がピークだった無料ニュースウェブメディア
画像箱のマジックに沸いた「素晴らしき」日々
画像箱やページネーションの是非
無料メディアの限界、有料メディアの伸び悩み
本当の問題は「無料か有料か」ではない

第2章 レガシーメディアのウェブ戦略の間違い
「紙優位」の意識が抜けない出版社系ウェブ編集部
社内の行き場を失った社員の「収容所」と化したウェブメディアも
売れなくても紙至上主義を変えられない出版社
ウェブに理想を求めた意識高い系記者・編集者の末路
コタツ記事は悪なのか?

第3章 私が『みんかぶマガジン』でやったこと
打率0割から初安打まで
タワマン文学作家との出会いで見えたもう1つの可能性
全て違う! 新聞記事の書き方、無料記事の書き方、有料記事の書き方
連載と特集ーー有料会員を増やし、やめる人を減らすテクニック

第4章 ウェブメディア編集者って何者だ?
通信社、雑誌社、ウェブメディア 媒体の違いで読者も変わる
有料ウェブメディアの本質は雑誌編集にあった
新聞記者は潰しがきかないのか?
ウェブメディア人は紙媒体を経験するべきなのか
紙を経験しないウェブメディア人はダメなのか

第5章 ウェブメディアの未来
転換期を迎えるウェブメディアの世界
サブスクと相性のいいプラットフォームは何か?
『スマートニュース+』の可能性
ジャーナリズムはどう守る

おわりに

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