贋作によって脅かされる「美術に触れる機会」 

加えて竹内氏は、今回のことで市民が美術に触れる機会が脅かされかねない面があるとも憂慮する。

「こういった芸術の価値に共感できないという方は、一定数いらっしゃいます。そうした立場からは『ほら見たことか。見てもわからんものに高いお金出して』という声もあがるでしょう。これまでは、そうした声に対して『そんなこと言わないで、信じてみてください』と呼び掛けてきました。

でも、贋作だったとなると、もうそうは言えなくなる。その場合、芸術に興味を持ってもらうためには、もっと強力な論理を打ち出していかないと……」(竹内氏)

高知県立美術館が所蔵する『少女と白鳥』(写真/同美術館提供)
高知県立美術館が所蔵する『少女と白鳥』(写真/同美術館提供)

贋作が明らかになりドイツで服役したあと、実名で絵を描いているベルトラッキ氏。彼は「(贋作で)自分の絵の技術は証明できたから、これからは俺の絵の価値が上がるんだ」という趣旨のことを口にしたと、マリー・ローランサン美術館の吉澤氏は話す。

数十年前にカネと名声を得るためにつくった贋作が、今どれほど深刻な問題を引き起こしているのか、本人はわかっているのだろうか。

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班