無情な「執行猶予付き」判決に、遺族の思いは
事故から約2年後の2021年3月15日、Wへの判決が言い渡された。禁錮3年、執行猶予5年。予想どおりではあるが、実刑にはならなかったことで法廷には知枝(勝美の妻)のむせび泣く声が響いた。
裁判長は、事実に反する供述を繰り返し、真摯な反省がされているとは到底言えないとも指摘したうえで、判決理由を次のように述べた。
「二度と運転しないことを誓っていることや、単純過失の交通死亡事故の判例などから、実刑が相当とまでとは言えない」
執行猶予がついたことで、各メディアはWの実名報道を取りやめた。勝美はこの世を去り、Wは日常生活に戻ることになる。知枝は話す。
「判決を聞いた瞬間、パパごめんねって。本当に納得できない結果でした。主人の性格からしたら、きっと、ありがとう、もういいよって言ってくれてるとは思うんですけど、やっぱり私も気持ちの整理ができなくて」
杏梨は、知枝より冷静でいながらも、やはり悔しさを隠しきれない。
「私たちが父の性格や帰宅ルートを知っていたから、父の過失がないと証明できたけど。この裁判は嘘を言ってもバレなきゃいいし、バレても執行猶予つくって、図らずも証明してしまった」
唯一の救いは、高橋弁護士(一家の代理人弁護士を務めた高橋正人氏)が判決後に会見を開き、司法や捜査機関を痛烈に批判したことである。
「私は遺族を褒めてあげたい、よくここまで頑張ったと。もし遺族が一生懸命、署名活動をしたり、チラシを配って目撃証言を集めていなかったら、勝美さんが加害者の立場だった。それをひっくり返したのは三島警察でもありません。検察庁でもありません。家族たちなんですよ。この事実を裁判所は見逃している。裁判所は遺族の苦しみを全く理解していない」
会見の席上で、高橋弁護士は「だから検察は控訴をすべきだ」と声を荒げた。「こんな判例を後世に残してはいけない」と強く訴えた。が、検察が控訴することはなかった。判決が確定したとき、知枝は「結局、被害者に救いはない」と悟ったという。それはWが司法の悪しき判例に守られた瞬間でもある。