特定少年に下された判決は……

今日、ワタルに会ったら聞こうと思っていた話があった。

「ワタル、闇バイトのきっかけになった話を聞かせてくれるかな」

ワタルを闇バイトに誘った子は、ワタルと同時期に多摩少年院にいたという。院内での接点はなく、名前を知っている程度の間柄。出院後、インスタでワタルの名前を見つけてコンタクトを取ってきたそうだ。ワタルのインスタからその子を特定できたが、逮捕されている様子はない。

やりそうなやつを見つけては、組織に引きずり込む。誘う方も誘われる方も、抜け出せない。生きづらいこの仕組みがなくならない限り、闇バイトのような犯罪システムはずっとつづいていくだろう。

いま、ソーシャルメディアとの関わりは切っても切れないものになっている。「誰かを売らなければ、自分を守れない」となる前に、まず、そこには危険があるということを知ってほしい。

自分は大丈夫、自分だけは大丈夫、なんてことは絶対にない。

少年院での出会いが、こうして悪い方向に行くことが悔しい。「セカンドチャンス!」の仲間のように、社会で応援できる関係性であってほしいと心から思う。

(写真はイメージ)
(写真はイメージ)
すべての画像を見る

ワタルの裁判の判決の日が決まったと連絡がきた。数日前の裁判では、高坂くんが情状証人に立ち、ワタルが社会に戻ってきたときのことを証言してきたと聞いた。

判決は12月13日。この日は皮肉にも、映画『記憶2』の完成試写日だった。

両親は裁判を傍聴したいと思っていたようだが、私たちはやめるように言った。マスコミが来ていれば、プライバシーなどなく質問責めにされるだろう。それはワタルも望んでいないことだ。

そして、判決のときがきた。

強盗傷害などの罪で、ワタルには懲役11年の実刑がくだされた。

この判決が重いか否かは、あえて言葉にしない。

ワタルの人生はこれで終わりではなく、まだこれからもつづく。変わらず寄り添いつづけたい。

ワタル、社会で待ってるからね。

文/中村すえこ
写真/AC写真、shutterstock

帰る家がない 少年院の少年たち
中村すえこ
帰る家がない 少年院の少年たち
2024年8月8日発売
1,650円(税込)
220ページ
ISBN: 978-4-86581-433-0

幼少期から親に虐待されて家出、食うために窃盗や強盗をした少年。友達の身代わりに詐欺の受け子をして抜けられなくなった少年。それぞれの犯罪の裏には、まだ自立できない年齢なのに、頼れる大人も安らぎもないという家庭や社会の問題がある。
また、少年院を出ても昔の仲間が足を引っ張る。追い詰められた結果、闇バイトの実行犯として懲役刑を受けた18歳の「特定少年」は「捕まってホッとしている」と言った。頼れる人のいない少年が生きていくには多くの困難がある。自身も少年院経験者の著者は、彼らが犯罪へと踏み込んでいくのは少年だけの問題ではなく、社会、すなわち大人の問題でもあると語る。人は人とつながることで生きていける。支えがあれば、人は変われる!

amazon