「1から10まで間違っている」
こうしたスダチと連携する板橋区に異議を唱えたのが、公開質問状を提出したNPOや有識者らだ。
NPO法人 登校拒否・不登校を考える全国ネットワーク共同代表・中村みちよ氏は、スダチの問題点を次のように総括する。
「そもそも不登校を訴えた時点で、子どもはかなり切羽詰まった状況にあり、家庭に安寧を求めたいはず。それにもかかわらず、一方的にデジタル機器を取り上げるなどすれば、子どもは家庭に居場所がないと感じてしまう。
無理に学校に行かせるアプローチは、のちに自傷行為や自死にいたる割合が高いとの研究結果もあり、それらの懸念を考えていないのはとても危険です。
また、親御さんの多くは、周りに子どもが不登校であることを知られたくないため、身近な人に相談する心理的なハードルが高い。
さらに、プログラムの内容を口外禁止にして、違反した場合は賠償金を支払う契約にしているのも悪質で、問題が起きた際の返金対応がないことにも疑問を感じます」
続けて、有識者として名を連ねた精神科医の斎藤環氏も、「スダチのやり方は1から10まで間違っている」と一蹴する。
「2020(令和2)年度に文部科学省が行なった調査によれば、小中学生が不登校にいたる主な要因には、先生の体罰や相性の悪さ、同級生からのいじめや嫌がらせが挙げられています。
加えて文科省は、子どもが不登校にいたるにはさまざまな背景があり、『不登校を問題行動と見なしてはいけない』と明言しています。
つまり、不登校児童・生徒が再登校できたところで、学校環境など外的要因が改善されなければ、根本的な不登校の解決にはならない。
不登校という一部の現象のみにフォーカスせず、学校生活において子どもを揺さぶる問題全体に視野を広げ、児童・生徒のメンタル全体の調和を考えるべきなのです。
そう考えれば、スダチのようなアプローチは根本的には無意味です。むしろ再登校を是として登校刺激を与えるプログラムは、子どもに悪影響を与える悪夢のようなものでしかありません。
かつて不登校であることは、発達障害などパーソナリティの問題として捉えられ入院治療の対象だった時代もありました。
それが1980年代から、不登校は教育システムや社会の在り方の問題として捉え直され、文科省のガイドラインも改訂されたのです。そうした歴史を踏まえても、スダチのアプローチは完全に時代錯誤といえます」