目の当たりにした国交省内のムダ遣い競争

明石市長の最後の年には、私は兵庫県治水・防災協会の会長をやっていました。県内の河川、砂防事業の促進をはかる任意団体で、その関係で国土交通省にもたびたび足を運びました。私がそこで見たのは、右肩上がりの予算競争でした。

たとえば水管理の部局があって、海岸とか河川などいろいろな部門があるのですが、全国大会と称して、部署ごとに予算を競い合うのです。前年度より予算が何パーセント伸びたかを棒グラフにして、伸び率の高い部門の課長が出世するような風潮です。

私に言わせれば、「ムダ遣い大会」です。官僚にとって大切なのは、自分の所轄でいかに多くの予算を獲得するかで、総コストを抑える発想などありません。一番お金を使った者がその後、局長になっていくような世界です。こんな時代に、右肩上がりの競争を官僚同士でしている。私は呆れていたのですが、みなさん真面目に戦っているから、なおさらタチが悪い。

公共工事の予算については、自治体側からも要望を行ない、私は県の会長として、兵庫の41市町を束ねて要望書を提出しました。ですが驚くことに、要望書に具体的な予算額を書かせないのです。かつ、工事のスケジュールも書かせません。

書かされたのは、工事の予定地だけ。緊急性のない工事も含めて、県内の山や河川を10ぐらい羅列させて、その中の2、3の工事を、担当課長の権限で許可するという段取りです。言うなれば、工事予定地の水増し申請。明石市の公共工事については、私は当初、本当に必要な2、3の工事予定だけを申請しようとしたのですが、「市長、そんなことをしたら、ゼロか1になります」と市の職員に止められました。

国交省のやり方に異を唱えたと見なされて、予算をつけてもらえなくなると。

そして要望書を提出した後も、具体的な予算額と工期は不明のままで、こちらから再度うかがいを立てなければならないのです。まるで「早く工事を始めたいのなら、そちらから頭を下げてこい」とでもいうような見下した態度で、腹が立って仕方がありませんでした。

工事のコスト見積りを安くでもしようものなら、なぜか怒られてしまいます。官僚社会では、大きな金額の仕事をする者が偉いのです。予算額を上げると、実際の工事の発注金額との差額が生まれます。官僚の自由裁量で使える予算なので、差額を返す必要はありません。その差額がどこに行っているのか?その行方は、透明化されていないブラックボックスの中です。

ある道路部門の課長は、「道路は造れば造るほど国民が幸せですよね」と本気で言っていました。道路は広いほうがいい、きれいなほうがいい、長いほうがいい、等々。この方も、予算は大きければ大きいほどいいとの考えをお持ちでした。

写真はイメージです 写真/shutterstock
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災害対策も同様で、「お金が大きいほど、できることが大きくなる」という発想のようです。担当の課長は、「山奥にある1軒の山小屋を土砂崩れから守るために、何10億円を使った」という話を美談のように語っていました。

「災害対策のための工事」と言われると、つい反対しづらくなりますが、安全な場所に新しい小屋を作るという方法もあります。数百万円の山小屋を守るために、税金で何十億円もかけて、大がかりな土砂対策の工事をする必要があるのでしょうか。疑問でしかありません。

わが恩師 石井紘基が見破った官僚国家 日本の闇
泉 房穂
わが恩師 石井紘基が見破った官僚国家 日本の闇
2024年9月17日発売
1,045円(税込)
新書判/256ページ
ISBN: 978-4-08-721330-0

志半ばで命を奪われた男の、よみがえる救民の政治哲学!

◆内容紹介◆
2002年10月、右翼団体代表を名乗る男に襲撃され命を落とした政治家・石井紘基(こうき)。
当時、石井は犯罪被害者救済活動、特殊法人関連の問題追及等で注目を浴びていた。
その弱者救済と不正追及の姿勢は、最初の秘書・泉房穂に大きな影響を与えた。
石井は日本の実体を特権層が利権を寡占する「官僚国家」と看破。
その構造は、今も巧妙に姿を変え国民の暮らしを蝕んでいる。
本書第Ⅰ部は石井の問題提起の意義を泉が説き、第Ⅱ部は石井の長女ターニャ、同志だった弁護士の紀藤正樹、石井を「卓越した財政学者」と評する経済学者の安冨歩と泉の対談を収録。
石井が危惧した通り国が傾きつつある現在、あらためてその政治哲学に光を当てる。

◆目次◆
はじめに 石井紘基が突きつける現在形の大問題
出版に寄せて 石井ナターシャ
第Ⅰ部 官僚社会主義国家・日本の闇
第一章 国の中枢に迫る「終わりなき問い」
第二章 日本社会を根本から変えるには
第Ⅱ部 “今”を生きる「石井紘基」
第三章 〈石井ターニャ×泉房穂 対談〉事件の背景はなんだったのか?
第四章 〈紀藤正樹×泉房穂 対談〉司法が抱える根深い問題
第五章 〈安冨歩×泉房穂 対談〉「卓越した財政学者」としての石井紘基
おわりに 石井紘基は今も生きている
石井紘基 関連略年表

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