小説は「死」について考察する手段

――活け花の先生である美苑の母は、病に倒れ、花のように「最期の瞬間まで、美しく活け(生き)続ける。それだけ」と延命治療を拒否します。また、美苑は大切な人々と死に別れ、その回復もこの小説の軸だと感じました。

上畠
 死生観はもっとも興味のあることの一つです。民俗的な死生観の違いを調べたり、よく友人とも話題にして日々考えています。私にとって小説を書くことは死を考察する手段でもあります。『しゃもぬまの島』は幻想味が強い死生観でしたが、今回は個人の生き方に根付いた素朴なものを書けたと思います。これからも追求したいテーマです。

――前作も死が大きなテーマとなっていましたね。前作より進化した部分はありますか。

上畠
 一作目より現実味のあるものを書けたと思います。いつもストーリーの構造から考えるのですが、今回は、人と人が仲良くなっていく過程を書く時など、構造はひとまず置いて感情の流れを信用して書いていった部分も結構あって。こういうのもアリなんだ、と思えました。
 あと、自分はずっと朝型だと思ってたんですが、意外と夜も書けることに気づきました(笑)。今回、月一回の連載で書かせていただいて、そうなると、仕事から帰ってきて真夜中まで書く日もあったんです。インコちゃんが眩しくないように、ちょっと離れたところで一人でパソコンをパチパチ打っていたんですが、その合間にインコちゃんの「プピッ、ピッピッ」ていう寝息とか、身じろぎする音が聞こえて、幸せな気持ちになって。夜も悪くないな、というのは発見の一つでしたね。

――それこそ家族がいる幸せを感じる瞬間ですよね。執筆で苦労したところは。

上畠
 美苑は動物と暮らしていて、その生活に満足しており、さみしさを感じていません。私も美苑と似ています。だから、結婚とは何かがわからない。そんな人間をどうやって「婚活」に向かわせるのかに、すごく悩みました。
 しかも美苑は行動が読めなくて……。訳はありつつも、急にクラスメイトの男の子に石を投げつけたり、かと思えば、マッチングアプリで出会った怪しい男を簡単に家に上げてしまったり、ある人に突然プロポーズしちゃったり。合理的なようで突拍子もないことをしちゃうので、何度もストーリーを練り直すことになりました。

「婚活」を書いて見えた、人とのつながり方

――「結婚とは何か」は上畠さん自身の問いでもあったと思いますが、その答えは見つかりましたか。

上畠
 考え始めたころから変わらないのは、結婚は子どもを作りたい人にはメリットのある制度なんだなということ。結婚せずに子どもを作ることももちろん可能ですが、結婚していたほうが何かとサポートなどを受けやすいですよね。
 一方、子どもを望まなくても結婚したいという人もいるわけで。心のつながりとか、相手との関係性を名のある確固たるものにしたい、という理由もあるのかなと、この小説を書いているうちに思いました。あとは、一緒に住んでいる人がいる場合、「結婚している」と答えられると説明が一気に楽になるということもあるかな、と。

――ご自身の結婚願望に変化はありましたか。

上畠
 美苑をあれだけ婚活に向かわせておきながらなんですが(笑)、一緒にいたい人ができたら一緒にいればいいし、一緒にいたくなくなれば離れればいい、という気持ちは変わらなくて。人になんと言われようとも気にならない性格なので、誰かとの関係を「社会に認められたい」という願望もないんですよね。

――この作品は婚活を描きながらも、いわゆる恋愛シーンはあまりなく、「やっぱ結婚っていいよね」と勧めるものでもないところが、現代的ですてきでした。

上畠
 ありがとうございます。小説の受け取り方は各々だと思いますが、人とのつながり方も、家族の在り方も、それぞれであっていいという思いを込めて書きました。美苑が婚活の果てに何を掴むのか、楽しんでいただけたら嬉しいです。


「小説すばる」2024年10月号転載

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