「僕みたいな商売……、必要でしょう」

引き取り屋とはどんなビジネスなのか――。

引き取り屋ビジネスの実態を探るため2014年1月、15年3月、16年8月の3回にわたり、私はある引き取り屋を訪ねた。

栃木県矢板市内の最寄りのインターチェンジから車で数分も走ると、コンテナやプレハブが雑然と並んだ一角が現れる。入り口で声をかけると、初老の男性が姿を見せた。後に動物愛護法違反(虐待)と狂犬病予防法違反(未登録・予防注射の未接種)の容疑で栃木県警に書類送検されることになる、白取一義氏だ(動物愛護法違反については不起訴処分)。

2度目に訪ねた時、白取氏は時間をかけて引き取り屋ビジネスについて語った。

「僕が引き取りやってるのをペットショップや繁殖業者が知っていてね。依頼を受けて犬や猫を引き取っている。お金をもらって」

建物からはひっきりなしに犬の鳴き声が聞こえてくる。白取氏に案内されてプレハブのなかに足を踏み入れると、犬たちの吠え声につつまれた。会話もままならない。放置されたままの糞尿のにおいで、息をするのが苦しい。犬たちは小さなケージに入れられ、足元は金網。ケージには犬の毛がびっしりとからみついていて、多くが3段重ねにされている。なかには2匹一緒に入れられ、ほとんど身動きできない状態の犬たちもいた。

写真/Shutterstock ※写真はイメージ
写真/Shutterstock ※写真はイメージ

圧倒的に犬が多いが、猫たちの部屋もあった。猫もケージに入れられたまま。爪が伸びっぱなしで何重にも巻いてしまっている猫や、皮膚病でかきむしったのか流血している猫がいて、ほとんどがじっとうずくまっていた。

白取氏は栃木、群馬、茨城、千葉など関東各地のペットショップ、繁殖業者から依頼の電話を受けて出向き、犬や猫を引き取っていた。埼玉県内の競り市(ペットオークション)に行き、「欠点」があって売れ残った犬や猫を引き取ることもあるという。

「週に1、2回は必ず電話があって、どこかに出向いている。1回あたり5~10頭、多い時は30頭くらいを引き取る。昨日は繁殖業者から7頭引き取った。その繁殖業者は『皮膚病になって、それはもう治ったんだけど、治るまでの間に生後何カ月にもなっちゃった。市場(競り市)では売れないから持って行って』って言っていた」

こうして敷地内に、常に150匹以上の犬を抱えていると説明する。白取氏も含めて3人で犬の面倒を見ており、「毎日、掃除して、すべての犬を運動させている。売れそうな犬がいれば、繁殖業者や一般の人に5000~2万円くらいで販売する。無料であげるのもいる。死んじゃう犬は年間30、40頭くらい。みんな寿命」と主張し、栃木県動物愛護指導センターにも同様の報告をしていると話す。

写真/Shutterstock ※写真はイメージ
写真/Shutterstock ※写真はイメージ

白取氏の手元には小型犬だと1万円、中型犬だと2万円、大型犬だと3万円が引き取り料として入ってくる。猫は5000~1万円程度を取る。買い手が見つかりにくい6、7歳以上だとその倍の料金を取ることもある。白取氏はこう話す。

「ショップからもよく電話がかかってくるよ。ショップの場合はだいたい5、6カ月以上の子犬を引き取ってほしいと言われる。ペットショップの店頭には20万、30万で売れる新しい犬を置いたほうがいいと、賢い社長はわかってるんだよね。でもバカな社長は、大きくなってしまっても、1万、2万でもいいから売ろうとする。僕はそういうバカな社長には『新しい犬をどんどん入れろ。5、6カ月の犬は俺のところに持ってこい』って言ってる。殺さないで、死ぬまで飼う。僕みたいな商売、ペットショップや繁殖業者にとって必要でしょう」

驚くべきことに、栃木県動物愛護指導センターは、白取氏のビジネスを容認してきた。たとえば2014年6月、同センターは事前に連絡したうえで立ち入り検査をしている。だが、「特に問題はないと認識している」と実際に検査に入った県の担当者は取材に答えている。