肉弾戦をものともしない馬の姿

いよいよ試合が始まった。センターライン端のサークルに置かれたウラクを奪いあうところから壮絶だった。⼀⽅が捕る、そうはさせまいと引っぱりあい、奪い、奪い返す、逃げる、追いつく、また奪う、その繰り返しで、ずっと団⼦状態。

昨⽇までのゲームは⼀体何だったのかという感じだった。これまでに⾏われた予選では、チームごとの実⼒差がありすぎて、ウラクを奪ったら、そのまま敵陣になだれこみ、疾⾛する必要もなく余裕でゴールに到達するシーンをたびたび⾒かけたものだった。

しかしキルギスとカザフスタンという強豪国対決だと、⾺が疾⾛するシーンはほとんど⾒られない。

コクボルに必要なのは駿⾺ではなく、もみあいに果敢につっこんでいく闘争⼼の強い⾺なのだとあらためて思い知らされた。

キルギス応援団はかなりヒートアップし、「⾏け!」「そこだ!」「何やってんだ!」のような野次(多分)をしきりに⾶ばしている。そのありようは、格闘技の観客のようだ。
⼈間の指⽰があるとはいえ、⾺の群れの中につっこみ、⾁弾戦をものともしない⾺の姿を⾒るのは初めてだった。

キルギス対カザフスタンの最終決戦(撮影・星野博美)
キルギス対カザフスタンの最終決戦(撮影・星野博美)

考えてみたら、⾺は古くから、移動⼿段としてのみならず、戦闘にも使われてきた。⾺にここまで戦闘的⾏為をさせられるのかという驚き。そして⾺のそういう側⾯を⾒たことがない現実が、いかに⾃分が⼈⼯的な環境で⾺と接さざるを得ないかを物語っていた。

やっとのことで敵陣ゴールの⽬前でウラクを運んでも、この2チームはそうたやすくゴールにはつながらない。むしろここからが勝負という感じだ。ゴールを⽬の前にしてもみあいはいっそう激しさを増す。ラグビーのスクラムのように、じりじり、じりじり、移動していき、ゴールさせまいとする⼒が横へ働く。しまいには厩舎コンテナの並ぶ場外へなだれこんでしまう。

これはおもしろい。サッカーのワールドカップなどで、予選では⼤差で勝負がついたりするのに、8強、4強と上がっていくにつれて得点が⼊らなくなるのと似ている。
そしてついにレフリーの笛が鳴り、試合が終了した。何点⼊り、どちらが勝ったのか、全然わからない。

「どっちが勝った︖」「いや、わからない」「どっちだろ」「微妙だね」などと話していると、キルギス陣営に座った若い⼥の⼦が涙をこぼし、彼⽒と思われる男性から必死になだめられているのが⾒えた。⼀瞬、嬉し涙かと思ったが、いやいや、悔し涙のようだ。

⼤本命のキルギスが負けたのか︕ だからといって、泣くのか……。それほどコクボル
には両国のプライドがかかっているのか。驚くことばかりだ。