「元が取れるといいね」のちに大化けする聞いたこともない楽器
最初に契約したアーティストは、マイク・オールドフィールドという内気な10代の青年。アルコール依存症の母親を持ち、屋根裏部屋に閉じこもって様々な楽器をマスターしていたオールドフィールドは、一人で多重録音する音楽を追求していた。
しかしあまりに斬新だったために、メジャーなレコード会社はどこも相手にしてくれなかった。
ブランソンは「自分たちのスタジオに住み込んで、空いてる時に好きなだけ使えばいい」と提案した。しかも文無しだったので毎週20ポンドのサラリーを支給し、将来印税が発生した時点で差し引くということにした。
すると、オールドフィールドは楽器をいくつかレンタルしなければならないと言ってきた。その中にはチャイムがあった。
「チャイムって何だい?」
「チューブラー・ベルズ(チューブ形のベル)だよ」
聞いたこともない楽器が20ポンドもすると分かると、この音楽で金儲けできるとは到底思っていなかったブランソンは、「元が取れるといいね」と微笑んだ。
こうして1972年の夏から1973年の春まで、『チューブラー・ベルズ』は録音された。
その間、ブランソンは22歳で結婚。ハネムーンから帰ってくると、両親はお祝いに、赤いレザーシートとウォールナットのダッシュボードがついた美しい中古のベントレーをプレゼントしてくれた。