人々を惹きつけるTAYLOWの“アニキ感”

TAYLOWがステージで跳ねる。(撮影/木村琢也)
TAYLOWがステージで跳ねる。(撮影/木村琢也)

パンクバンドの中にはステージ上で強面を貫き、ボーカルが表情も崩さなければMCも一切しないというバンドも多い。

しかしTAYLOWは違う。曲の合間合間では、饒舌とも言えるほど客に語りかけ、サビでは客席にマイクを向け、にこやかな表情で客の反応を楽しんでいる様子も伺える。

5月25日の下北沢CLUB Queでのライブでは、冒頭から数曲演奏し終えたところで、「ここまではOi! Oi!って感じで、スキンヘッド・ムーンストンプで乗る曲だったけど、今からはポゴやモッシュの曲やるから」と言い、さらに数曲進むと「次はサークルやって」と語りかけていた。

ライブで客のノリ方まで、こうして丁寧に指導するバンドは他に見たことがない。それはまさに、かつてロンドンから帰ってくるや、地元・名古屋の音楽仲間たちを“洗脳”していった、パンク博士のTAYLOWならではのものだ。
 
ファーストの『JUST ANOTHER the原爆オナニーズ』以降、the原爆オナニーズは5枚のシングル(EP含む)、そしてライブ盤やベスト盤、ミニアルバムを含めると、19枚ものアルバムをリリースしている。そのうち主要なものは、現在、Apple Musicをはじめとする各サブスクサービスでも展開中だ。

TAYLOWがバンド活動を始めた頃、音楽の世界はメジャーとマイナーの間に大きな壁が存在していた。だがサブスクやSNS全盛の現在は、そうした垣根が取り払われ、世界中のあらゆる音楽に、誰もがアプローチしやすくなっている。

「配信形態の音楽が出はじめたとき、最初に、『原爆は全部、配信できるようにしてよ』とレーベルに頼みました。今のそういう状況は、本当にうれしいんですよ。

自分のことを考えると、レコードも好きだしCDも聴きたい。でも、配信でも聴きたいでしょ。僕は洋楽オタクだから、マイスペース経由でサウンドクラウドだったかな? 初期のストリーミングサービスに飛びついて、海外のバンドを聴きまくりました。

だったら自分のバンドも配信すれば、海外の人まで届くんじゃないかと思いました。
アメリカへ行った時、デッド・ケネディーズのジェロ・ビアフラが来て『原爆オナニーズ、俺ちゃんと8インチのレコード持ってるよ』と言われたんです。『初回プレスのジャケットナンバー○番を持ってるぞ、ものすごく苦労して手に入れた』とか。それで僕が『お前すごいな!』って言うと、すごく喜ぶんですよ。

それと同じで、世界のどっかにいる人が、配信した曲をいち早くチェックして聴いてくれたら、そりゃ嬉しいですからね」

みずからが情熱的な音楽ファン、パンクマニアであり続けるTAYLOWが、楽曲リリースやライブ活動を通してファンに色々なものを分け与え、持てる知識をあまねく伝えてくれる。
音楽サークルの先輩のようなこの頼れる“アニキ感”こそ、TAYLOWが多くの人を惹きつける最大の要因なのかもしれない。

情熱的なパンクマニアであり続けるTAYLOW。ライブを通じてファンにもその情熱を伝え続けている。(撮影/木村琢也)
情熱的なパンクマニアであり続けるTAYLOW。ライブを通じてファンにもその情熱を伝え続けている。(撮影/木村琢也)
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文中敬称略。以下、最終回へ続く。

その活動はドキュメンタリー映画『JUST ANOTHER』として公開!

【プロフィール】
タイロウ/1958年3月、愛知県豊田市生まれ。1982年、名古屋でザ・スター・クラブに在籍していたEDDIE(ベース)と中心に結成したthe原爆オナニーズのボーカル。1983年、ドラマーTATSUYA(中村達也)とギタリスト良次雄が脱退、直後にギタリストSHIGEKIとドラマーMAKOTOが加入。
1984年、自らのレーベル“ティン・ドラム”より『JUST ANOTHER』『NOT ANOTHER』の2枚のEPをリリース。以後、数度のメンバーチェンジを経て、
現在は、1986年に加入したJOHNNY(ドラムス)、2001年に加入したSHINOBU(ギター)の4名のメンバーで活動している。
2020年、キャリア初のドキュメンタリー映画『JUST ANOTHER』公開。
バンド結成42年目となるいまも精力的にライブ活動を続けている。
公式X(旧ツイッター):@genbaku_onanies
公式HP:the原爆オナニーズ公式HP

※「よみタイ」2024年6月26日配信記事

取材・文/佐藤誠ニ朗 撮影/木村琢也

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