「素晴らしいショーを生み出すっていうのは、最高に大事なことなんだ!」
結果的にウォズは、1982年には3日間で約50万人を動員しながらも1200万ドル(当時約29億円)を損失。
翌83年は2000万ドル以上(当時約50億円)の費用を負担(現金を積んだトラックは会場近くの丘の上で武装警備員に見張られていたという話もある)。4日間のイベントで約67万人を動員し、20ドルのチケットが飛ぶように売れたにも関わらず、またしても1200万ドルを失った。
しかし、そんなことは彼にはどうでもよかった。富に対して下品な執着はなかった。
「大成功だった。お金は失ったけど、そんなことはたいした問題じゃない。大事なのは、たくさんの人があそこで楽しい時間を持てたことだよ」
ウォズはスクーターで会場を走りながら、人々が楽しむ様子を嬉しそうに眺めていた。82年には開催前日に妻が出産。初日は生まれたばかりの赤ん坊を抱いてステージに上がった。
何十万もの人々が歓声を上げて祝ってくれた。あの瞬間を一生忘れないと、ウォズは振り返る。彼のもとには、『US FESTIVAL』が人生最高のコンサートだったと言う手紙やメールが今でも届く。
「僕にとってもあれは人生最高の時だった。お金を儲けたり損したりする……それも大事なことだ。でも素晴らしいショーを生み出すっていうのは、最高に大事なことなんだ!」
日本のIT長者もこれくらい洒落たことやってくれたら。もちろん損失覚悟をお忘れなく。
文/中野充浩、TAP the POP 写真/shutterstock
*参考・引用文献『ウォズニアック自伝』(ダイヤモンド社)