上向きの学習曲線──人間の「得意な方法」で効率よく進む

「計画立案」は、いろいろな意味を含む概念だ。

計画立案と聞いて、受動的な活動を思い浮かべる人も多いだろう。じっと座って、頭をひねり、宙を見つめ、やるべきことを模索する。組織で言えば、報告書をまとめ、マップや図表を色分けし、作業予定を立て、フローチャートのボックスを埋めるといった、型にはまった行動とみなされることもある。この方法で立てられた計画は、見かけは時刻表のようで、中身はさらに面白味に欠ける。

この説明に当てはまる計画立案は非常に多い。これは重大な問題だ。計画立案を、抽象的で形式的な思考と計算の行為とみなすのは、とんでもない誤りである。

優れた計画立案の特徴は、これらとはかけ離れている。その特徴はラテン語の動詞「エクスペリリ」にとらえられている。エクスペリリはすばらしい2つの英単語、エクスペリメント(実験する)とエクスペリエンス(経験する)の語源で、「試みる」「試す」「証明する」などの意味がある。

人が何かを学習するプロセスを考えてみよう。あれこれ試し、工夫を凝らし、何が有効か、有効でないのかを見きわめ、これらをくり返しながら学習する。つまり、実験を通して経験を生み出していく。専門用語で言えば「経験的学習」である。人間は工夫を重ねて学ぶことに長けている。

これは幸運なことだ。というのも、人間は何かを一発で成功させるのはとても苦手だからだ。
工夫に必要なのは、粘り強さと、何より失敗から学ぼうとする姿勢である。「1万回失敗したのではない。うまくいかない方法を1万通り見つけるのに成功したのだ」と、発明家のトーマス・エジソンは言った。

トーマス・エジソン
トーマス・エジソン

これはけっして誇張ではない。エジソンは電球のフィラメントとして使える、安価で耐久性の高い素材を見つけようと奔走し、ありとあらゆる素材で何百回と実験を重ね、とうとう炭化竹(たんかちく)が使えることを発見した。

計画立案での「実験」では、プロジェクトのシミュレーションを行う必要がある。条件をいろいろ変更して、どうなるかを模擬体験する。右端のボックスに到達する助けになる有効な変更は残し、無効なものは捨てる。こうした試行錯誤と真剣な検証を経て、シミュレーションはクリエイティブで厳密で詳細な計画、つまり信頼性の高い計画になるのだ。

だが人間の優れたところは、自分の経験だけでなく、他人の経験からも学べる点にある。エジソンは実用的な電球をつくろうとした過去の科学者や発明家の成果を学んで、電球のフィラメントの実験を行った。いったんエジソンが問題を解決すると、実験しなくても、ただエジソンの方法を調べるだけで、誰でも実用的な電球をつくれるようになった。

とはいえ、たとえ私がエジソンの解決策を知っていたとしても、初めて電球をつくるときはきっと苦戦するはずだ。時間がかかるだろうし、できあがった電球は使いものにならないかもしれない。そこでもう一度つくってみると、ちょっとましなものができる。これを何度もくり返すうちに、どんどんよくなっていく。これを「上向きの学習曲線(ポジティブ・ラーニングカーブ)」と呼ぶ。

試行錯誤を重ねるたび、より簡単に、より安価に、より効率的にできるようになる。そうした反復もまた経験であり、計り知れない価値がある。古いラテン語のことわざにあるように、「反復は学習の母」なのだ。

よい計画は、実験または経験を周到に活用する。優れた計画は、実験と経験の両方を徹底的に活用する。