すぐに小説になってしまう、
「大学」という場の面白さ

―― カウンターの内も外も、学生と大学院生しかいないディアハンツは、普通のバーとは違って何年も働くことも、常連でいることもできない。大学もそうですが、“通過していく”場なんですよね。

 基本は四年で出ていく場所。属人化がないというか、どんどん新しくなる。たった四年間で一番下から一番上まで行くことって社会に出たら絶対ないですよね。そこが大学の面白さで、そのまますぐ小説になってしまうような書きどころだと思います。

―― 大学を出てからだいぶ経って読んだ感想ですが、大学っていいところだな、と(笑)。渦中にいる主人公たちはそんなふうに思っていないかもしれないですが、振り返ると大学時代にしか味わえないものがある。学生同士の人間関係もそうですし、先生との出会いもそうですよね。朔は理学部生ですが、漢文の先生との印象的な場面も描かれています。

 大学生活がテーマなので、主人公が勉強しているところも書きたかったんです。大学ならではの、一般社会とはちょっと違う価値観も入れたいなと思いました。
 なんとなく覚えている授業って誰でもあると思うんです。内容は詳しく覚えていなくても、講義室の景色ぐらいは思い浮かぶみたいな。それに、先生を出すことで、揺れ動いてるところを過ぎた人を登場させたかった。主人公の背中を押してくれるような。
 

――『22歳の扉』は京都の大学生活を描いた作品ということで、森見登美彦さんや万城目学さんの系譜に連なる小説として読むこともできると思います。森見さんと万城目さんはファンタジーの要素が濃いですが、その土台には、京都の大学ならあってもおかしくない……と思わせる場の力があると思います。青羽さんにとってお気に入りの京都はどこですか。

 一番は哲学の道です。それも深夜に歩くのがおすすめ(笑)。満月の夜に哲学の道から南禅寺へ散歩をすると、なんともいえない感動があります。

―― デビュー作の『星に願いを、そして手を。』では中学から大学、社会人になったばかりの頃までを十六歳で書いたわけですが、今回はほぼ同世代の主人公を並行して書いたことになります。書き終えた今、どんな感想をお持ちですか。

 リアルタイムで感じていたこと、考えていたことをこの速度で小説にできることって、もうないんじゃないかなと思いました。今回のように、何もないところから物語を立ち上げていったのはデビュー作以来かもしれません。そういう意味で感慨深いですし、もう一度デビュー作を書いたような気持ちです。これからいろんなテーマに挑戦したいですが、この作品が僕にとって特別なものになったのは間違いないと思います。

ーーーーーーーーーーーーー
小説には京都の名所や
四季を彩る行事が数多く登場する(撮影:青羽さん)

下鴨神社「鴨川と高野川の合流地点、つまり鴨川デルタの北側に下鴨神社はあって、家から歩いて十分ほどで着くことができた」
下鴨神社「鴨川と高野川の合流地点、つまり鴨川デルタの北側に下鴨神社はあって、家から歩いて十分ほどで着くことができた」
夜の哲学の道「京都にはかなりの数の観光客が押し寄せていて、近頃の清水寺や金閣寺はとりわけひどいようだけれど、この辺りはまだまともにふらつける場所だった」
夜の哲学の道「京都にはかなりの数の観光客が押し寄せていて、近頃の清水寺や金閣寺はとりわけひどいようだけれど、この辺りはまだまともにふらつける場所だった」
鴨川「鴨川には春の光が差し、温められた土の甘い匂いが漂った。空は青く霞み、風が冬の名残の冷たさを運んだ」(「」内は本文より)
鴨川「鴨川には春の光が差し、温められた土の甘い匂いが漂った。空は青く霞み、風が冬の名残の冷たさを運んだ」(「」内は本文より)
すべての画像を見る
22歳の扉
青羽 悠
2024年4月5日発売
1,980円(税込)
四六判/336ページ
ISBN: 978-4-08-775467-4

【小説すばる新人賞、史上最年少受賞から8年】
京都の大学に入学した数学好きの田辺朔。
大学生活に馴染めず、漫然と授業を受け、バイトをしているうちに一回生前期は終わってしまった。
後期に入り、旧文学部棟の地下、通称「キューチカ」でひっそりと営業されているバーのマスター夷川と出会い、朔の大学生活は一変した。
夷川につれられ、初めてのウイスキー、タバコ、そしてバーやクラブなど、これまで見たこともない世界を知っていく。
しかし、ある日をさかいに、何の前触れもなく夷川はナイジェリアへ留学に行ってしまった。「バー・ディアハンツはお前に任せる!」の一言を残して。
そこからマスターとしてバーに立つことになった朔は、その大学内の不思議なバーで数々の出会いと別れを経験する――。自由奔放な女の子に振り回されたり、学生運動紛いに巻き込まれたり、自分の行く末に悩んだり……
20代前半の「不変」と「今」が詰まった圧倒的青春小説!

amazon 楽天ブックス セブンネット 紀伊國屋書店 ヨドバシ・ドット・コム Honya Club HMV&BOOKS e-hon

オリジナルサイトで読む