“量”から“質”の転換に伴って進める多角化
その一方で、オリオンビールは「オリオンホテル 那覇」と「オリオンホテル モトブ リゾート&スパ」という2つのホテルを所有している。
前者はファミリー用の客室やビアダイニングを2023年11月に新設。
後者も2024年4月に、全23室あるスイートルームの全面改装や、オーシャンウィング棟の最上階にある客室をプレミアムフロアへリニューアルするなど、積極的な投資を行なっている。
オリオンビールを多角化させる狙いについて、村野氏は「オリオンビールは沖縄と共に成長することを鮮明に決めたから」だと理由を述べる。
「沖縄と共に成長する2つのドライバーとして『酒類清涼飲料事業』と『観光ホテル事業』を定め、これらの事業領域には今後も投資を強化していく予定です。これまでのビールメーカーから総合酒類化へ舵を切り、チューハイやワインなど、多様な製品を販売していくのに加え、『沖縄に来て、楽しい時間を過ごし、沖縄を好きになってもらう』には、観光不動産事業も欠かせない要素だと考えています」
村野氏曰く、沖縄の観光は“量”から“質”への転換が求められているという。
2025年にはオリオンホテル モトブ リゾート&スパに近接する沖縄県北部の今帰仁村に大型テーマパーク「JUNGLIA(ジャングリア)」の開業が控える。
決してインフラが潤沢ではない沖縄が、ある種オーバーツーリズム状態になった際に、サービスの質が肝になってくるというのだ。
「ビールと関係ないワイン事業を始めたのは、量ではなく質にこだわる方が多い傾向にあり、そういった方々の支持を得ることが重要と考えるからです。そこで、糸満市観光農園のワイナリーを立ち上げてワイン開発に乗り出し、さらにはオリオンホテル那覇の1階に世界各国のワインを取り扱う『ENOTECA(エノテカ)』を誘致しました。エノテカは沖縄初出店で、県内随一を誇るワインのラインナップが揃っています」
酒類清涼飲料事業と観光ホテル事業の2つがシナジーを生み出すことで、「沖縄の楽しかった思い出」や「沖縄へ行きたいと高揚する気持ち」が想起され、それがオリオンビールの成長にもつながるし、ひいては沖縄の成長にも貢献する。
そのようなメカニズムを作っていきたいと村野氏は言う。目指すのは、沖縄の製造業では初の上場だ。
「オリオンビールだけが抜け駆けして成功しても意味はありません。沖縄全体としての成長に貢献していきたいですし、しっかり上場を果たすことで、弊社の取引先である沖縄の地元企業の信用にもつながればと思っています。オリオンビールが県内外や海外のお客さまから好かれ、沖縄も好きになってもらうことで、それが巡りめぐって沖縄の企業も潤うわけです。
南天に輝く星の『オリオン』を輝かせるように、沖縄の発展や知名度の向上を目標に掲げる『Make Okinawa Famous』を体現するために、これからも尽力していきたい」
取材・文・撮影/古田島大介