ロ朝が一体で日米韓と対峙する構図
日本政府は選手らの支援のため政府職員14人を平壌に派遣する予定だったが、これも取りやめになり、日本当局者が平壌入りする貴重なチャンスが失われた。
北朝鮮が本当に感染症を恐れ、日本との接触の機会をあきらめたのかどうかは不明だ。その一方で北朝鮮には対外的に環境が好転する兆しもある。
「ロシアです。国連安全保障理事会で核・ミサイル開発に対する度重なる貿易制裁を受けている北朝鮮に対しては、安保理が設けた『専門家パネル』が制裁の実施状況を監視しています。
そのパネルの業務も安保理決議により1年ごとに延長が繰り返されていますが、今回ロシアはこの決議の採択を拒否権の行使で阻止し、パネルを解散させるか、これに反対する米国とバーターし、別の形で北朝鮮制裁を緩和することを画策しています。現実になれば北朝鮮監視網には大きな穴が開くでしょう」(外報部記者)
北朝鮮は、大陸間弾道ミサイル(ICBM)開発を理由にした2017年12月の強力な安保理制裁で輸出入に大きな足かせをはめられてきた。だが2022年にロシアがウクライナに侵攻して米欧との対立が激化すると、安保理は一致した対応が取れなくなり、北朝鮮のミサイルに新たな制裁を科せない状態が続いてきた。
ウクライナ侵攻用の弾薬を供与する北朝鮮と関係を一層強化したロシアがさらに北朝鮮擁護を強め、既存の安保理制裁の緩和に動こうとしているというのだ。
「北朝鮮は金与正氏の2月の談話で日本に秋波を送ってきましたが、対日関係の改善そのものに迫られているという状況にはありません。韓国との間で緊張が激化している中、日本と関係改善ができれば日韓や日米韓協力を揺さぶれるとの計算が働いたのでしょう。
これがうまくいかなくとも、ロシアが安保理で制裁緩和を実現してくれれば、ロ朝が一体で日米韓と対峙する構図を強調でき、安全保障上環境は大きく好転します」(外交部記者)
岸田首相は金与正氏の談話が伝えられた後の25日午後、記者団に「相手のある話だ。何も決まっていない」としながら「北朝鮮との間で諸懸案を解決するには金正恩氏とのトップ会談が重要だ。私直轄のレベルでさまざまな働きかけを行うと言ってきた」と、依然交渉に意欲を持っていることは隠さなかった。
一方の金与正氏は談話の末尾で「自分が願うから、決心したからといってわが国家の指導部に会うことができるのではないということを首相は知るべきである」と強調し、会談開催を欲しているのは岸田首相で、自分たちは請われる立場だとマウントをとっている。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班