親子密着型同居 スタイルの功罪

「一生、結婚しない人がこれだけ増えた!」というニュースは衝撃的ですが、そもそも現代人は、「独身」である期間が、親世代や祖父母世代に比べて、圧倒的に伸びました。

「結婚しないまま人生を終える人」以外にも、「40歳近くまで結婚しない人」「結婚したけれど、離婚して独身に戻った人」「結婚したけれど、配偶者に先立たれた人」も増加したのです。その理由の一端が、日本人の長寿化にあります。

大学の講義で、私は小津安二郎監督作品の『晩春』(1949年公開)を紹介することがあります。物語の中で笠智衆さん演じる父親が、原節子さん演じる27歳の一人娘に、結婚を促すために語る言葉があるのですが、その内容に学生たちはどよめきます。

「お父さんはもう56(歳)だ、もう先は長くない」というセリフです。

現代の日本社会で「56歳」という年齢が「老い」に結びつくことはほとんどありません。芸能人に限らず一般人でも、今の50代は光り輝いており、生命力に満ち溢れています。むしろ「人生百年時代」において、「50代は人生の折り返し地点」と捉える人も少なくないのではないでしょうか。

ですが、この映画がつくられた時代は違いました。当時の男性の平均寿命は約60歳だったのです。この物語のお父さんは、決して泣き落とし戦略で娘を結婚させようとしたのではなく、本人のリアルな感覚として「もう自分の人生は長くない」、そう感じていた、ということです(母親はすでに他界しているという設定です)。

当時は、年金受給前に約半分の男性が亡くなる時代です。今のような年金財政破綻の心配がないと同時に、27歳の娘も「万が一結婚できなかったら、親にパラサイトしよう」などとは思わなかったはずです。

むしろ「早く結婚しなくては、自分はひとりぼっちになってしまう」という、生活の経済的基盤と心のよりどころを失う焦燥感の方が強かったはずです。それが「皆婚」時代の昭和と、「難婚」社会の平成かつ「結婚不要社会」の令和との最大の違いです。

男性は3人に1人、女性は5人に1人が結婚しない社会に…現代日本が「結婚不要社会」となってしまった決定的要因_3
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今や結婚しないまま30代になり、40代そして50代になっても、実家に同居することは可能です。親が60代、70代、80代を過ぎても健康であることも多くなりました。途中から年金受給も始まります。パラサイトしている子も、給料から幾分かを家計費として納めていれば、親世代も助かるかもしれません。

中年になった我が子の世話を、高齢になっても続けなければならない親世代の心労も、とめどない子への愛情で解消できるのかもしれません。「子はいくつになっても愛しいもの」「老いては子に従え」の変形が、日本社会特有の親子密着型同居スタイルに継承されているのかもしれません。

自らは結婚せず「未婚」を選んでも、家に帰れば家族がいる安心感、これは大きいものです。あるいは一度結婚したものの「離婚」となった場合も、「実家に戻る」選択肢があります。日本では、若年で離婚した女性の約半数が実家に戻るという報告もあります。

自分で選んだ配偶者との関係は解消可能でも、実家に戻れば、血でつながった本物の「家族」がいる安心感。そしてそれを許してきた親世代という構図が、社会のセーフティネットの欠損部分を補い機能し続けている。この実態こそが、日本の「未婚社会」を下支えしている大きな要因となっています。

図/書籍『パラサイト難婚社会』より
写真/shutterstock

#1 日本の若者たちの未来を狂わせた非正規雇用の拡大
#3 経済的格差への言及無くして、結婚率の低下は語れない

パラサイト難婚社会(朝日新聞出版)
山田昌弘
2024年2月13日
990円
280ページ
ISBN: 978-4022952561

なぜ、結婚はこんなにも難しくなったのか?結婚、未婚、離婚は社会の鏡に他ならず。全世代必読のリアル難婚本、ついに誕生!

結婚した3組に1組が離婚し、60歳の3分の1がパートナーを持たず、男性の生涯未婚率が3割に届こうとする日本。経済停滞、非正規雇用社会の闇が描く、「難婚社会」の正体と課題を徹底的に問う!

(目次より)
【はじめに】
夫婦とは「他人」か  etc. 

【第1章】「結婚」とは何ですか?
結婚とはゴールではなくスタート 
正解のない結婚のリアル 
結婚と恋愛が個人のものへ 
「個人化の時代」の誕生 
非正規雇用社会への変貌 
三世代にわたる変化なき結婚観  etc. 

【第2章】「結婚生活」には何が要りますか?
夫婦の距離感の世代間リアル 
多様化する結婚のカタチ 
「個人化」されるあらゆる決断 
「フキハラ」をするのは夫か妻か 
稼ぎと表裏一体の愛情の搾取 
選択の岐路に迷う「個人化ネイティブ世代」  etc. 

【第3章】「未婚」は恥ですか?
「生涯未婚率」の急上昇 
結婚マイノリティがマジョリティへ 
未婚が示す経済的な社会課題 
「結婚するメリットって何だっけ?」 
「個人化」の代償としての未婚 
「共依存社会」日本の行く末  etc. 

【第4章】「離婚」は罪ですか?
「離婚」は陽の当たる場所へ 
戦前は「離婚大国」だった日本
富裕層と貧困層に二極化する離婚 
離婚が日本で増えた三つの要因 
「できちゃった婚」から「授かり婚」へ 
日本型「愛情の分散投資」とは  etc.  

【第5章】「結婚」が人生に与えるもの
「おひとりさま」が老後を迎える日本 
配偶者と他人との最大の違い 
性愛抜きの結婚という問い
「ケア」という他者との絆 
互いの人生に「コミット」する覚悟 
「多様な幸せの家族」を求めて

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