「未婚」問題が極めて
日本独特の社会現象になっている

しかし、そうした親の愛を一身に背負って育った団塊の世代ジュニアが大人になった頃、日本経済は長引く停滞時期に突入しました。親が与えてくれた豊かさを、今度は自分自身の手でつかまなくてはならない社会人としての始まりの時期。そんな大事な時期に、就職氷河期が始まったのです。

しかもその責任は、社会のせいというよりは、とことん自己責任論で語られるようになりました。「フリーターや非正規雇用を目指すのは、責任を負いたくない若者の身勝手な事情だろう」と。

そんな我が子を、豊かさを経験してきた親世代は、突き放すことができませんでした。本来自立すべき成人後も、「あともう少し家にいていいよ」と、自宅に住む(寄生)することを許してしまったのです。

せめてそこでしっかりと家賃相当分や家事労働分の支払いを要求していればともかく、これまで至れり尽くせりで家事も掃除も洗濯も面倒を見てきた親たちは、そのまま我が子の家事労働を請け負い続けてしまったのです。

60歳を迎えた人の3分の1がパートナーを持たず、男性の生涯未婚率は3割に。異常な難婚社会の背景にある「日本独自の親子関係」_4
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大学卒業時に正社員就職ができず、とりあえずアルバイトや非正規雇用で社会人をスタートした時点では、親も子も「当面の間だけ」と思ったかもしれません。しかし実際には、非正規で社会人をスタートさせた世代が、その後正社員として人生のステップアップを望むことはほとんど不可能であったことは、今では周知の事実です。

「あと少し、家にいていいよ」「今は不況だから、独身も仕方ないね」と温かい目で見守ってきた子世代が今、壮年となり、中年となり、大量の「未婚者」になっています。厳密に言えば、「壮年親同居未婚者」です。最近では「子ども部屋おじさん」「子ども部屋おばさん」なる言葉まで生まれています。

同時に日本では、大量の「引きこもり」も存在します。かつて「未婚の若者」だったのが、「未婚の壮年」「未婚の中年」となったのと同じように、かつて「中高生」の問題だった「引きこもり」は若者の問題となり、今では「壮年・中年の引きこもり」へと移行しています。

中には親の年金頼みで高齢の親にパラサイトしてきた「中年引きこもり」が、親の介護が必要な年齢になり、途方に暮れるケースもあります。社会全体の歯車が狂い始める「8050問題」です。

内閣府が22年11月に行った調査によると、「趣味の用事の時だけ外出する」「自室からほとんど出ない」状態が6カ月以上続いている「引きこもり」状態の人(15歳から64歳まで)は、推計146万人もいる実態も見えてきました。

もちろんここで、「未婚」と「引きこもり」を乱暴につなぎ合わせるつもりは毛頭ありません。ただ、「おひとりさま」にしろ「パラサイト・シングル」にしろ「引きこもり」にしろ、「未婚」問題が極めて日本独特の社会現象になっていることに注目したいのです。

また「パラサイト・シングル」や増える「中年引きこもり」に関して言えば、その根底には「成人になっても子を独立させない(できない)日本独自の親子関係」が、ある種の要因になっていることを確認し、かつ「成人しても子が独立できない」理由の多くの部分で、経済的困窮が関係しているのであれば、それは広く日本社会全体の課題として考える必要があることを強調したいのです。

具体的には、現代社会の産業が製造業からサービス産業・IT産業にシフトしていく中で、働き方が根本から変わっているにもかかわらず、相変わらず「新卒一括採用」と「終身雇用制」に固執してきた企業と政府の責任でもあります。

新卒時に正社員になれなくても、本人の意欲次第でいつでも再チャレンジが可能な社会にすること、正社員と非正規社員のかけ離れた条件を是正すること、仮に非正規やアルバイトであっても、「家族」に頼らず「個人」が生活していける仕組みを整え、社会的セーフティネットを強化すること、リスキリングやリカレント教育に社会全体で取り組むことなど、できることはたくさんあるはずです。


図/書籍『パラサイト難婚社会』より
写真/shutterstock

#2 戦後劇的に変化した「未婚社会」の下支えとは?
#3 経済的格差への言及無くして、結婚率の低下は語れない

パラサイト難婚社会(朝日新聞出版)
山田昌弘
2024年2月13日
990円
280ページ
ISBN: 978-4022952561

なぜ、結婚はこんなにも難しくなったのか?結婚、未婚、離婚は社会の鏡に他ならず。全世代必読のリアル難婚本、ついに誕生!

結婚した3組に1組が離婚し、60歳の3分の1がパートナーを持たず、男性の生涯未婚率が3割に届こうとする日本。経済停滞、非正規雇用社会の闇が描く、「難婚社会」の正体と課題を徹底的に問う!

(目次より)
【はじめに】
夫婦とは「他人」か  etc. 

【第1章】「結婚」とは何ですか?
結婚とはゴールではなくスタート 
正解のない結婚のリアル 
結婚と恋愛が個人のものへ 
「個人化の時代」の誕生 
非正規雇用社会への変貌 
三世代にわたる変化なき結婚観  etc. 

【第2章】「結婚生活」には何が要りますか?
夫婦の距離感の世代間リアル 
多様化する結婚のカタチ 
「個人化」されるあらゆる決断 
「フキハラ」をするのは夫か妻か 
稼ぎと表裏一体の愛情の搾取 
選択の岐路に迷う「個人化ネイティブ世代」  etc. 

【第3章】「未婚」は恥ですか?
「生涯未婚率」の急上昇 
結婚マイノリティがマジョリティへ 
未婚が示す経済的な社会課題 
「結婚するメリットって何だっけ?」 
「個人化」の代償としての未婚 
「共依存社会」日本の行く末  etc. 

【第4章】「離婚」は罪ですか?
「離婚」は陽の当たる場所へ 
戦前は「離婚大国」だった日本
富裕層と貧困層に二極化する離婚 
離婚が日本で増えた三つの要因 
「できちゃった婚」から「授かり婚」へ 
日本型「愛情の分散投資」とは  etc.  

【第5章】「結婚」が人生に与えるもの
「おひとりさま」が老後を迎える日本 
配偶者と他人との最大の違い 
性愛抜きの結婚という問い
「ケア」という他者との絆 
互いの人生に「コミット」する覚悟 
「多様な幸せの家族」を求めて

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