念願のキャラを演じるも、声優の難しさを実感した『ハナヤマタ』【成長】
奥野に「声優として成長した」原点を尋ねると、Wake Up, Girls!と合わせて、2014年7月期に放送されたアニメ『ハナヤマタ』と答えてくれた。奥野が声優デビューして2作目の出演となったアニメだ。
同作で演じた笹目ヤヤは、奥野念願のツンデレキャラクター。自身の地声を生かせるキャラクターだったが、思い通りにいかず苦しむ結果となった。
「いざ演じてみたら自分の思うように全くできなくて……。演技の基礎が身についていない状態で現場に入って、何度も録り直して、周りの方たちにもすごくご迷惑をかけてしまいました。
声優さんって楽しいだけじゃない、すごく難しい仕事なんだって気づかされた作品です」
さらに奥野は「念願のキャラクターを演じることへの喜びと同じくらい、プレッシャーも感じていました」と話す。「上手く演じなければ」という義務感もまた、思い通りにいかなかった理由の1つだろう。
「ヤヤちゃんというキャラクターが大好きだったし、ヤヤちゃんは完璧な女の子だったから“私も完璧になりたい!”と思っていたんです。
だけど結局、ヤヤちゃんに追いつくためにずっと足掻いていただけだったかもしれません」
この悔しさが、奥野に気づきを与え、声優として【成長】させてくれた。
奥野は当時を振り返る。「今思い返すと、この時から(Wake Up, Girls!での)夏夜はすごく演じやすかったんだなって」と。
「あの頃は大人っぽい声を演じることがすごく嫌で、マネージャーさんにも相談していました。その時、“私は香耶が出す低い大人の女性の声がすごく好きだよ。それはあなたの武器だから大事にした方がいい”って言ってもらったんです。
でも当時はそれを受け入れることができなかった。今やっとその言葉が理解できるようになりました」
2022年6月にはSpotify限定でPodcast番組「STARRY NIGHT」を配信する奥野。
これまでにもラジオ番組のパーソナリティを務めてきたが、ソロでの出演は初の試みだ。新しい挑戦であると同時に、このPodcastは奥野にとって「原点回帰」でもあるという。奥野の出身地であり、Wake Up, Girls!の聖地でもある「東北」と向き合うコンセプトのもと、番組制作が行われているからだ。
2019年に行われたWake Up, Girls!の解散ライブで誓った約束を、ようやく果たす時が来たのだ。
「解散ライブのMCで“このコンテンツが終わっても、私がみんなを絶対に東北へ連れて行くからね”と話したんです。解散後には地元・東北の復興支援のために、私自身も企画を考えたりして。それを楽しみに待っていてくれた人たちもいました。
だけど、そのあとすぐコロナ禍になり、現地へ行くことも難しくなってしまって……悩んでいたタイミングで、このPodcastのお話をいただきました。また私が、みなさんと東北を繋げられることが今はすごく嬉しいです」
奥野は番組のテーマソング『星のカフェテラス』の歌唱も担当する。「リスナーのみなさんを癒せたらいいなと思って歌いました」と優しく微笑んだ。
Wake Up, Girls!という1つの原点に立ち返る中、1人の声優として歩みを進める奥野はどんな声でどんな話を聞かせてくれるのか。このPodcastで奥野の新しい原点を目撃するかもしれない。その瞬間に、みなさんも立ち会ってみてはいかがだろうか。
取材・文/阿部裕華
撮影/小川遼