「若い世代にツケを回してはいけない」という殺し文句
財務省の思惑が理解できないという安藤氏だが、「財務省は東京大学法学部出身者が多い印象です。法律関係を勉強していた人は『借りたものは返すことが当たり前』といった債権債務の考え方を持っているため、国家財政と家計をごっちゃに考えているのかもしれません」と分析する。
とはいえ、財務省の狙いには謎が多く、「国の借金」という表現以外にも、国民が「増税やむなし」と思ってしまうような表現は意外と多い。
「『将来世代にツケを回してはいけない』という表現を見聞きした人は少なくないでしょう。どうしても『将来世代』や『子供たち』といった言葉を使われると情に響くものがあり、増税に対して寛容になってしまいます。しかし、将来世代にツケを回さないために増税を繰り返し、ムダ削減の掛け声のもとに財政支出を縮小した結果、景気は冷え込み、経済的な理由から結婚・出産できない若者は増えました。
いまは多くの若者が奨学金という正真正銘の「借金」を背負って社会人になります。若者世代にツケを回さないはずなのに、若者は奨学金という借金を背負い、結婚できず子供も持てない生活を強いられているのです。これこそ、若者へのツケ回しです。そして今はツケを回す将来世代がそもそもいない状況になりつつあります。
また、『高齢者複数人を現役世代1人で支えることは難しいため、増税して対応するしかない』というメッセージを伝えるため、若者が複数人の高齢者を支えているイラストも頻繁に使用されます。“税と社会保障の一体改革”という言葉も同様の危機感を煽るためにメディアが積極的に使う言葉です。メディア、もとい財務省はありとあらゆる言い回し・表現方法で、『増税は仕方がない』と思い込ませようとしてきます」
増税を煽る表現のボキャブラリーの豊富さには驚かされる。しかし、これまで頻繁に使われていた「国民一人当たり数百万円の借金」といった表現はあまり見なくなった。この背景については次のように分析する。
「とはいえ、『国の借金ではなく政府の借金』という認識は徐々に広まっており、国民に返済義務がないことに気づいた人が増えたことが大きいです。とりわけコロナ禍や2023年はのインボイス制度をきっかけに従来の税の在り方に疑問を持ち、正しい貨幣観を身に着けた人は確実に増えました。
また、『国民一人当たり数百万円の借金』という表現を使った場合、正しい貨幣観を持っている人から『国民一人当たり数百万円の借金なんて噓っぱちだ』という批判が毎回殺到していることも影響しているように思います」