SNSでの宣伝活動も重視

2人がお店に立つようになってからも、困難は続く。メニューはレシピがほとんど残っていなかったため、味を再現するのが難しく、もともといたスタッフも独自のアレンジを加えるように。常連の中には「量も減ったし、味も変わったね」と離れてしまう人もいた。さらにはコロナも重なり、店内からは賑わいが消えた。

店を立て直すため、まず手をつけたのが「おじいちゃんの味の再現」。味を覚えている昔からの常連さんや、もともといたスタッフに何度も聞いて調整を続けた。

「コロナが収まるころ、おじいちゃんがお店を始めたころからの常連さんから『おじいさんの味だね』って言ってもらって。それが本当にうれしかったです」と池田さん。一度は離れてしまった常連さんも再び通ってくれるようになるなど、しだいに店に賑わいが戻ってきた。

味の再現に加え、力を入れたのが、SNSでの宣伝だ。

「若い人や女性にも町中華を知ってほしいという思いがあって。自分たちがご飯屋さんを調べるときはSNSを使って探すので、店を継いだ当初からSNSで発信していました」(池田さん)

SNSでの投稿は、池田さんの料理の練習風景や新作メニューの食べ方紹介などさまざま。地道な投稿で徐々に人気となり、X(旧Twitter)のフォロワーは8800人、インスタグラムは7万人、Tik Tokは9万2000人にものぼる。

時間を見つけてSNSの宣伝用の動画を撮影する池田さん(右)とシュウさん(左)
時間を見つけてSNSの宣伝用の動画を撮影する池田さん(右)とシュウさん(左)

さらに、2人は新メニューの開発にも積極的に取り組んでいる。「新作は、自分たちが食べたいものから考えることが多いんです」とシュウさん。店で人気の冷やし中華の上に豚バラ肉とニンニクの芽を炒めて乗せた「スタミナ冷やし」も2人の“食べたい”が詰まった商品だそう。

「実は2人ともけっこう大食いなんです。この駅の近くって、焼肉屋さんみたいなガッツリしたものが食べられる場所がなくって。ちょうど冷やし中華の新メニューを考えているときに穂乃花と焼肉を食べたいねって話していて。お肉と冷やし中華を合体させたらおいしいんじゃないかと思って作ってみたのがはじまりです」(シュウさん)

「年に1回、おじいちゃんに会いに大分にお墓参りに行くんですが、その時に店のポップを見せて、『こんなのやってるんだよ』って報告しています。おじいちゃんはお客さんを喜ばせるのが好きだったから、おもしろがってくれてたらいいな」と池田さん。

インタビュー中も笑顔が絶えない2人
インタビュー中も笑顔が絶えない2人

お店の人気が増す一方で、困りごともあるという。

「私たちを目当てに来てくださる方もいて、とってもうれしいんですが、隠れて撮影されることや、勝手にYouTubeに動画を上げられてしまうこともあって」とシュウさん。

最近では、店に無言電話が来たり、閉店間際に車が店の前にずっと停まっていたりすることもあったそう。

「何も言わずに(写真や動画を)撮られるのが怖いなと感じていて。注意をすると、『態度が悪い』と口コミに書かれてしまったり……。一言声をかけていただければ、私たちも喜んで一緒に写真を撮るので、どうかお願いします」(池田さん)