政府は猛暑を“災害”扱いすべきでは
最高気温の日本記録は、埼玉県熊谷市の41.1度(2018年)。この年の流行語大賞のトップ10に「災害級の暑さ」がランクインした。これは気象庁の記者会見で同庁の関係者が、この時の猛暑を「災害という認識」と発言したのがきっかけだった。
「災害級」というのは、災害ではないが、災害と同程度の危険があることを意味している。こう言うと「大げさではないか」と思う方もいるだろうが、非常に的確な表現に思える。
国土交通省が公表する防災白書で「自然災害」とされているのは、地震・津波や火山噴火、台風、集中豪雨などで、熱中症はこれに入っていない。
しかし、死者数を比較すると自然災害は2018年が444人、2019年が155人、2020年は107人なのに対して、熱中症は同じ3年間に1581人、1224人、1528人。自然災害の数倍から十数倍もの人が亡くなっており、その点においては、まさに「災害級」といえるだろう。
熱中症の死者は近年、高齢者や女性に多く、また屋内での発生も増加している。
死者のうち65歳以上の割合は、1995年は179人(56.3%)だったが、死者がもっとも多かった2010年は1372人(79.3%)と8割近くを占めた。その後も毎年、おおむね同じ割合で推移している。
一方で、「医療機関を受診した人の半数以上は65歳未満」というデータもあり、新型コロナウイルス同様、死者に占める高齢者の割合が高くても、若い人も注意が必要といえる。実際、65歳未満の死者数は2018年が293人、2019年が224人と決して少なくない。
政府は熱中症の死者数を年間1000人未満にすることを目標としているが、法律で災害だとされていないせいか、その対策は注意を呼び掛ける広報活動が中心にならざるをえない。
例えば、環境省は「熱中症予防情報サイト」を作り、トップ画面で全国の暑さ指数を図示している。ここには有益な情報が多く、この原稿を書く際にも大いに利用させてもらったが、はたしてこうしたPRだけで死者が減らせるのだろうか。
環境省のプレスリリースには「令和3年の東京23区のデータでは、(熱中症死者数の)8割以上が高齢者、約9割が屋内で、そのうち約9割がエアコン未使用だった。エアコン未使用のうち、約2割はエアコンが設置されておらず、熱中症予防のためにはエアコンの設置及び適切な利用の促進が重要」と書かれている。
エアコン未使用のうち約8割の人が、エアコンがあるのに使っていなかったということをもっと重視すべきだ。
気象庁が発表した「3カ月予報」では、今年の夏は全国的に暖かい空気に覆われやすいため、気温は高くなるそうだ。ちなみに今年の5月1日から29日までの間に、全国ですでに2294人が熱中症で緊急搬送された。これは昨年(1417人)の1.6倍を超える。
悪いことにロシアのウクライナ侵攻が重なり、電気料金の値上げが続いている。よく政治家は「国民の生命と財産を守る」と言う。だが、本気で守るつもりなら、エアコンのない家庭にはエアコンを設置し、高騰した電気料金を一部、補助する仕組みを作れば、助かる命はかなり増えるのではないだろうか。
猛暑は自然災害であり、自然災害から国民を守るのは国の務めと考え、早急に取り組んでほしい。
写真/共同通信社