がん遺伝子パネル検査の特徴

では技術面では、従来のがん遺伝子検査とどのような違いがあるのでしょうか。一言で言うと、それは「どういった遺伝子の変化を検出するか(できるか)」という点にあります。

遺伝子の「変異」には、狭義の変化と、広義の変化があります。まず、狭義で「変異」と言ったときにも、その変化には5つのパターンがあります(図8-3上)。⑴ある塩基が別の塩基に入れ替わる置換、⑵ある部分の配列が繰り返される重複、⑶ある部分に余分な塩基が入る挿入、⑷ある部分の塩基が抜け落ちる欠失、⑸挿入と欠失の組み合わせです。こうした遺伝子の変化はバリアントと総称されています。

がんはもはや種類ではなく遺伝子情報で治療する時代へ? 最前線「がんゲノム治療」とは。治療を受けられるのはどんな人なのか_3
(図8-3)がん遺伝子パネル検査で判別可能な5つのバリアント(上)と、遺伝子異常の例(下)
*図上:『CancerBoardSquareVol.5No.2』(医学書院/2019年7月)をもとに作成

これらに加え、さらに広義で遺伝子の変異を捉えたときには、遺伝子のコピー数変化遺伝子再構成が含まれます(図8-3下)。まず、コピー数変化ですが、一般にヒトの遺伝子は父母それぞれのゲノムに由来するものを1組ずつ、あわせて2組受け継ぎます。

つまり、遺伝子のコピー数は基本的に2コピーとなりますが、1コピー以下になる欠失、あるいは3コピー以上に増幅することをコピー数変化と言います。また、遺伝子再構成は、前述の遺伝子融合のように、遺伝子の構造上の変化が起こることです。

たとえば、EGFR遺伝子の特定の領域で起こる欠失変異にも、どの部分で、何個の塩基が失われるのかによって、多くのバリアントがあります。コンパニオン診断では、主に頻度の高いバリアントのみを検出します。

いくつのバリアントを検出するかは、コンパニオン診断薬のメーカーによっても異なりますが、がん遺伝子検査として行われる検査では、確認しようとしていないバリアントが見出されることはありません。

一方、がん遺伝子パネル検査の場合は、遺伝子の配列を取得して、そこからバリアントを見出していくので、上記5パターンすべてのバリアントが判定されます。そのなかには、現時点では実際に遺伝子の機能に変化をもたらすかがわからない「意義不明のバリアント」と呼ばれるものが含まれている可能性もあります。

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(図8-4)がん遺伝子パネル検査とがんゲノム医療の概念病的意義が不明なものも含めて、解析対象となる遺伝子、ゲノム領域のすべてにおける遺伝子の変異や増幅などを検出する
*国立がん研究センター「がん情報サービス」をもとに作成

がん遺伝子パネル検査の結果の解釈には専門的な知識を要します。そこで開かれるのがエキスパートパネルと呼ばれる会議です。エキスパートパネルには、各分野の専門家(主治医、腫瘍内科医、検体を見極める病理医、ゲノムの専門家である臨床遺伝専門医や遺伝カウンセラーなど)が参加し、最新の科学的エビデンスに基づいた医学的な解釈と、治療法の検討を行います。

保険診療としてがん遺伝子パネル検査を行う場合は、このエキスパートパネルにおける解析結果の意義づけが必須の要件となっています。