手術が先か、抗がん剤が先か…自分にとって最良の治療法を選択するために必要なこと「ときにはガイドラインを超えた選択肢も」
同じ臓器のがんを患っていても、抗がん剤が効きやすい人もいれば、副作用が強く出て抗がん剤を投与できない人もいる。人によって選択肢が無数に存在するがん治療ゆえに、方針を迷ってしまうことも多いだろう。自分にとって「最良の治療」を選択するために知っておきたい知識がまとめられた『「がん」はどうやって治すのか 科学に基づく「最良の治療」を知る(講談社ブルーバックス)』より、セカンドオピニオンの基本的な考え方や、ガイドラインを超えた最新の取り組みを一部抜粋して紹介する。
「がん」はどうやって治すのか 科学に基づく「最良の治療」を知る #2
ガイドラインを超えた選択も
標準治療で第一選択が手術とされていても、患者さん自身がさまざまな理由から手術を希望しないことがあります。手術をしない場合どの治療法を選択するかは、ガイドラインの範囲を超えたところでの医師の判断と患者さんの決断になるでしょう。手術以外の治療法について、これまでの試験結果に基づいて選択していくことになります。
手術や放射線治療は多くの場合、治癒をめざして行われますが、薬物療法は血液がんの一部や胚細胞腫瘍などを除けば、治癒を期待することが難しい治療法です。例外的に、血液がんや胚細胞腫瘍では治癒が期待できる治療手段として薬物療法が使われます。
したがって、まず選択するのは治癒をめざす治療であり、手術が難しいステージ4のがんや再発の場合、また年齢や全身状態などから手術や放射線治療が適当ではないと判断された場合には薬物療法を選択します。
一方、薬物療法には、完全な治癒が難しいとしても長期間にわたってがんを抑制し、症状を和らげる効果を示すものがあり、生活の質を向上させ、余命を延ばすのに役立つことがあります。
ことに免疫チェックポイント阻害剤は、薬物療法の柱の一つとして、さまざまながんで重要な選択肢となり、保険適用もされています。どんながんに対して効果が高いか、他の抗がん剤などの薬物との組み合わせで使用するとどんな効果があるか、副作用はどのようなものかなど、これからさらに研究が進むことでしょう。
現段階で薬物療法で使われる薬の種類は100を超えており、効果が得られる用量と副作用の出る用量が接近しているので、薬剤の選択や投与量・投与法の決定には幅広い知識が必要です。そのために、薬物療法の専門医である腫瘍内科医が活動している施設もあります。
治療方針については、多くの病院では定期的なカンファレンス(医療者の会議)で担当医が他の医師を交えて相談し、ときにはキャンサーボードと呼ばれる拡大カンファレンスで、外科、放射線科、病理科など他の専門科の医師とともに検討して、最善の方法を考えていきます。
イラスト/書籍『「がん」はどうやって治すのか 科学に基づく「最良の治療」を知る』より
写真/shutterstock
#1 がんの罹患率は上昇傾向にあるが、死亡率は下がっている
#3 がん治療の最前線「がんゲノム治療」とは
「がん」はどうやって治すのか 科学に基づく「最良の治療」を知る(講談社)
国立がん研究センター
2023年12月14日
1,320円
328ページ
ISBN:978-4065340394
【がん治療本の決定版】
――「後悔しない選択」のために必要な知識が凝縮。
◆「がんを治す」ための正しい知識が身につく
がんの罹患率は年々上昇しているが、医療の進歩に伴って、死亡率は低下している。そんな最新医療の恩恵を受けるには、治療を受ける側、患者をサポートする側の知識も欠かせない。手術、放射線、抗がん剤(薬物療法)、免疫療法は、どのようなメカニズムでがんを治療するのか。最新検査からがんゲノム医療まで、エビデンスに基づく「意味のある治療」とはどのようなものか。2人に1人がかかり、「国民病」ともいえるがんと折り合いをつけて生きるために、必要な知識を徹底解説。
◆おもな内容
・どんな検査でなにがわかるか
・腫瘍マーカーは目安にすぎない
・手術するかしないかを決める基準
・手術が先か、抗がん剤が先か――治療法の選択と順序
・臨床試験に参加するにはどうすればよいのか
・転移がんの治療方針
・ガイドラインを超えた選択をするとき
・がん組織を取らずに検査できるリキッドバイオプシー
・「薬が効きそうか」を判断する遺伝子検査
・分子標的薬、免疫療法の最新事情
・「標準治療」=「並の治療」ではない
・「がんの遺伝子情報」に基づく個別化医療のはじまり ほか
――〈治療を受ける〉〈患者を支える〉全ての人へ