ある組長が経験した逃走劇

そもそもヤクザの逃走はよくあることなのか。この疑問に「しょっちゅうだね。(警察に目をつけられたら)とりあえず逃げろだ」と答えたのは、自身もよく逃げたという指定暴力団傘下の組長だ。
前出の幹部の論理でいうと、個人的なケンカや詐欺、違法薬物などは逮捕されても勲章にはならないためなのだろう。この組長は詐欺スレスレの不動産案件を仕込んでいたときに、現場のマンション周辺をウロウロしていた警察に出くわしたという。

「マンションの玄関で警察に『○○号室の住人ですか?』と聞かれたが、『違います。××です』と答えた。その部屋とは別の部屋を別名義で借りていたからね。『ご苦労さんです』といって、警察の前を通りすぎたよ。
でもパチンコに出かけてた若いヤツは店の駐車場で20人ほどの警察官に囲まれて捕まってしまったから、自分は逃げて様子見をすることにしたんだ」

警視庁管轄の交番にも金容疑者の手配写真は掲示されていた
警視庁管轄の交番にも金容疑者の手配写真は掲示されていた

ヤクザの逃亡といってもいろいろある、と組長は続ける。

「微罪による時間稼ぎもあれば、逮捕後にしばらく懲役を余儀なくされる場合は、ある程度、身の回りを整理する必要が出てきて出頭しないパターンもある。ただ単に逮捕されたくないので逃げるというヤツもいる。誰かどこに逃げたのか、仲間内ならおおよそわかる」

ヤクザの逃亡生活を支えるのは仲間や組織が多い。ただ逃亡に必要な金や食料、住居があっても、誰かと携帯で連絡を取れば、その着信履歴から居場所を特定されるし、外に出れば人目につきやすくなる。

「いつまで逃亡するか、できるかは、本人の我慢と忍耐しだいだ」(組長)

取材・文/島田拓
集英社オンライン編集部ニュース班