日本茶のあれこれを「見て」「買えて」「味わえ」る、まるで“日本茶のワンダーランド”〜鎌倉の茶寮小町
鎌倉で育ち、今も鎌倉に住み、当地を愛し続ける作家の甘糟りり子氏。食に関するエッセイも多い氏が、鎌倉だから味わえる美味のあれこれをお届けする。今回は、小町通りにある日本茶の味と世界を堪能できる空間へ。「茶寮」といっても敷居の高いことはない、ジム帰りにふらりと立ち寄ってしまう「日本茶のワンダーランド」ともいうべき、その魅力を語る。
鎌倉だから、おいしい 第二章 #12
日本茶の意奥深さには改めて驚嘆する
私はジムの帰りに寄ることが多いので、たいてい小腹が空いている。そんな時には玄米餅の磯辺焼きを頼む。餅は発芽玄米と青大豆の入ったものの二種類。小さく切った餅が市松模様に並べられ、柚餅子とわさび漬けが少量添えてある。磯辺焼きは碁石茶とのセットだ。碁石茶とは発酵茶で、葉っぱを広げて乾かし、それが碁盤のように見えることからこの名が付いたという。
発酵させた日本茶があるなんてことも、最近知ったことだ。長年身近にあって、それなりに知っていると思っていた日本茶の意奥深さに改めて驚嘆する。日本茶についての本を読んでいるのだけれど、本を読んだりいろいろ試したりして、もう少し体験と知識が積み重なってから、同じ煎茶や碁石茶を味わうと、また別の感想を持つかもしれない。それがおもしろいし、自分でも楽しみなのだ。
さて、この店にも「映え」なアイテムが存在する。季節のパフェがそれだ。林檎、サンシャインマスカット、栗、レモンなど、その時々の果物がパフェとなって献立に登場する。どれもが味はもちろんルックスも日本茶との相性を考えて作られていて、なるほどと感心してしまう。
軽食の献立も用意されているのだが、そこにあるカレーも同様。お茶に合うよう、スパイスが主張しすぎない「和」のカレーである。
「茶寮小町」はその店名の通り、小町通りと鶴岡八幡宮の参道を結ぶ本の短い通りにある。小町通りからなら、この通りを小さく左折して竹垣のアプローチを行くと、奥まった場所にこの店はある。目と鼻の先の小町通りの喧騒が嘘のようにひっそりとしていた空間だ。ひっそりとしていながら、敷居の高い雰囲気がなく、私はついついトレーニングの帰りに眉毛も描かず、ワンマイルウエアのまま飛び込んでしまうのだ。
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写真・文/甘糟りり子
2020年4月3日発売
1,650円(税込)
四六判/192ページ
ISBN:978-4-08-788037-3
この本を手にとってくださって、ありがとう。
でも、もし、あなたが鎌倉の飲食店のガイドブックを探しているのなら、
ごめんなさい。これは、そういう本ではありません。(著者まえがきより抜粋)
幼少期から鎌倉で育ち、今なお住み続ける著者が、愛し、慈しみ、ともに過ごしてきたともいえる、鎌倉の珠玉の美味を語るエッセイ集。
お屋敷街に佇む未来の老舗(イチリンハナレ)、自営の畑を持つ野菜のビーン・トゥー・バー(オステリア・ジョイア)、カレーもいいけれど私はビーフサラダ(珊瑚礁 本店)、今はなき丸山亭の流れをくむ一軒(ブラッスリー・シェ・アキ)、かつての鎌倉文士に想いを馳せながら(天ぷら ひろみ)……ガイドブックやグルメサイトでは絶対にわからない、鎌倉育ちだから知っているおいしさと魅力に出会える1冊。
素材が豪華ならいいというものでもない、店の内装もまた味わいの一端を担うもの、いいバーとバーテンダーに出会う喜び……著者自身の思い出や実体験とともに語られる鎌倉のおいしいものたちは、自然と「いい店」「いい味」ってこういうことなんだな、という読後感をくれる。
版画のように精緻なタッチで描かれた阿部伸二によるイラストも美しく、まさに読んでおいしい、これまでなかった大人のための鎌倉グルメエッセイ。