「給料が上がらない」「仕事がつまらない」

その先に待っていたのは悪循環でした。

インターネットやデジタル技術が普及した2000年以降の世界市場では、モノやサービス、システムの国際競争に勝つためには、独創的なアイデアや、かゆいところに手が届く画期的な工夫、魅力的なデザインのような「ソフト面での魅力」が不可欠になりました。

それらを実現するためには、結果を出した社員への報酬を弾んだり、現場の裁量権を拡大したりして、やる気を高めなければなりません。独創的な機能や魅力的なデザイン、効果的なブランディング戦略は、社員がただ上司や経営陣の指示通りに仕事をしているだけでは生まれません。社員が仕事を面白がり、自発的かつ創造的に取り組むやる気が不可欠です。

しかし社員をお金のかかるコストだとみなすような経営では、社員のやる気は高まるどころか蝕まれてしまいます。「ソフト面での魅力」を打ち出せない日本企業の競争力はさらに低下し、ますますコストダウンに励まざるを得なくなりました。それらの企業では社員の給与水準はいっそう低迷し、日々の仕事から「面白さ」や「やりがい」が失われていきました。

こうして多くの日本の会社員がやる気を無くしてしまったのです。

先のギャラップ社の「グローバル職場環境調査」への感想を訪ねた独自アンケートで、日本が最下位だったことについて「当然だと思う」「まあ妥当な順位だと思う」と回答した人たちに対し、「最下位になったのは何が理由だと思いますか」と複数回答で質問した結果です。

経営層では「給料が上がらない」(56.76%)、「給料が低い」(45.95%)が1、2位を占め、以下「忙しすぎる」(27.03%)、「上司に能力がない」(24.32%)、「結果に対して正当な評価が得られない」(21.62%)、「仕事がつまらない」(21.62%)が続きました。一般社員では「給料が低い」(72.97%)が1位で、「給料が上がらない」(64.86%)が2位、以下、「結果に対して正当な評価が得られない」(29.73%)、「望まない仕事を押し付けられる」(27.03%)、「忙しすぎる」(24.32%)が続きました。経営層、一般社員ともに賃金などの処遇と仕事内容の双方に不満を抱えている現状が読み取れます。

社員の幸福を重視し始めたアメリカの大企業

日本とは対照的にアメリカの大企業は社員の仕事への満足度、幸福度を高める方向へとマネジメント(経営・管理)の舵を切っています。

イリノイ大学のエド・ティーナー名誉教授らの研究よって、幸福度の高い社員はそうでない社員と比べて創造性が3倍、生産性や売り上げもそれぞれ3割強、4割弱も高い傾向が明らかになりました。幸福度が高い人は欠勤率や離職率が低いという事実もわかってきました。

こうした研究を踏まえて、アメリカでは社員の幸福度を測るEH(Employee Happiness=従業員幸福度)と呼ぶ尺度が開発され、グーグルを筆頭に、社員の幸福度を高めるための役職であるCHO(Chief Happiness Officer=最高幸福責任者)を設ける企業が次々に出てきているのです。

「日本企業で熱意あふれる社員は6%のみ」の衝撃…給料も仕事のやりがいも長期低落なのに、社員を「お金のかかるコスト」扱いする日本企業の問題点_3
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あなたが「やる気」を取り戻すために

アメリカとの格差も含めて、何だか口惜しくなりますね。

そんな口惜しい話を本書の全編にわたって詳述する狙いは二つあります。

一つは、ほかならないあなた自身のキャリアアップのためです。

あなたの会社の経営がどう間違っているのかを知ることは、あなたが職業人生の勝者になるために必要な武器になるはずです。

まずあなたは自分を苛む心の痛みから解放されるでしょう。次にキャリアアップに向けた道筋を描けるようになるでしょう。

例えばこんな道筋です。

1、現状の誤ったマネジメントがいかに社員の意欲を挫いてしまうかを理解していない経営者や上司に改善を促す。

2、改善されればそれでよし。

3、改善されなければ「会社には未来は無い」と、これまでの経営から脱却しようとしている企業に転職する。あるいは敢えて会社に残り、副業を始めたり、起業の準備をしたりする。

もちろん経営者や上司に改善を促すような回りくどい努力などせず、すぐに転職の準備をするのもいいでしょう。本書巻末の「おわりに」でも触れますが、すべての日本企業が社員をお金のかかるコストだとみなす「縮み経営」の罠に陥ってしまったわけではもちろんありません。これまでの経営を変えようという大企業も少しずつ増えてきました。その意味では、今は危機対応の「縮み経営」がようやく変わりつつある過渡期だと言えます。

あなたがやる気を取り戻し、キャリアアップを実現するチャンスは拡大しているのです。


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厚生労働省も警鐘 日本の社員教育費はアメリカの60分の1である事実

『日本の会社員はなぜ「やる気」を失ったのか』(平凡新書)
渋谷和宏
「日本企業で熱意あふれる社員は6%のみ」の衝撃…給料も仕事のやりがいも長期低落なのに、社員を「お金のかかるコスト」扱いする日本企業の問題点_4
2023/11/17
1045円
192ページ
ISBN:978-4582860443
1990年代半ば以降、市場や技術動向の激変に対応できず、競争力を失った日本企業――。
その凋落の一因に、会社員の「やる気」の無さがあるのは間違いない。米ギャラップ社が世界各国の企業を対象に実施した調査によると、日本企業の「熱意あふれる社員」の割合はたったの6%であった。これは調査した139カ国中132位で最下位クラスである。

では日本の会社員が「やる気」を失った原因は一体何なのだろうか?

過去30年にわたる日本企業のマネジメント(経営・管理・人事)の問題点を丁寧に検証し、私たちが再び「やる気」を取り戻して、日本企業が復活を遂げるための処方箋を提示する。
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