実父が号泣した、弁護人の言葉

2003年6月26日。最終弁論を傍聴した。紫色のシャツにベージュのパンツ、スリッパを履いた守が入廷し、「死ぬことはびびっていません」と遺族の感情を逆撫でした。

「テレビが来たので怒鳴りつけてやった。これから来ないか」

酔ったAさんから電話があり、閉廷後に伊丹までタクシーを飛ばしたが、何度呼んでも応答はなかった。酔い潰れたんだと思い、わたしは大阪市内に戻った。

翌日、「22時まで待っていたのになんで来んかった」と電話で怒られた。急いで伊丹に向かった。Aさんとともに朝からビールを飲みながら、わたしは昨日の法廷の様子を説明した。

「戸谷茂樹主任弁護人は『君のお父さんは、君が望むなら大学へも進学させてくれただろう』と守に語りかけていた」

Aさんは「そうか」と言って黙った。そして、天井を見上げ、ボロボロ泣き出した。守のために運送業を設立し、100万円で事務所を建ててやったこと。守が夢だった航空自衛隊に入隊して家族で喜んだこと。そんな思い出が胸中に去来したのかもしれない。

幼い宅間守・元死刑囚を抱く実父Aさん
幼い宅間守・元死刑囚を抱く実父Aさん
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最終弁論では、戸谷弁護人もまた泣きながら守に語りかけた。

「君は生まれながらにして殺人鬼だったのではない。君が大きく間違ったのはあのとき、あの時点に『鬼』と化したことだ」

鼻をすすりながらメモを取る記者、そして遺族。この男は、いったい何人の人間を悲しませてきたのだろう。

最終弁論から2か月が経った8月28日。守に死刑判決が下された。

(#3へ続く)

取材・文/小林俊之

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#3

『前略、殺人者たち 週刊誌事件記者の取材ノート』(小林俊之、ミリオン出版)
小林俊之 
2015/11/9
1,650円
191ページ
ISBN:978-4813022640
殺人現場を東へ西へ
事件一筋30余年のベテラン記者が掴んだもうひとつの事件の真相。
報道の裏で見た、あの凶悪犯の素顔をいま明かす!

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