殺害、拘束、拷問などの人権蹂躙を正当化する「テロとの戦い」

それだけではありません。今日の国連の機能不全と国際秩序の崩壊に対して、イスラエルとのこの「異常な関係」よりも更に重大な責任をアメリカは負っています。

それは9・11に対して当時のブッシュ大統領が戦時国際法に規定のなかった「対テロ」戦争という危険なスローガンを掲げて、実体の分からない「テロ組織」を相手にするとの口実で、アフガニスタン、イラクに侵攻し、犯罪の捜査もせず証拠もないままに裁判もなく民間人を一方的にテロリストと決めつけ殺害、拘束、拷問などの人権蹂躙を行うことを正当化したことです。

このブッシュの「対テロ」戦争以降、ロシアや中国のような権威主義国家だけでなく、自称「自由民主主義国家」でも、権力に抗う集団を「テロリスト」と呼び、政敵に「犯罪者」の烙印を押した上で「テロリストとは交渉せず」のスローガンを掲げることで、不正な権力に対する正当な批判をも封殺し、それでも抵抗を続ける者は捜査令状も裁判もなく拘束、監禁、暴行、拷問、殺害する道が開かれてしまったのです。

イスラエルは死刑を廃止していますが、「テロリスト」のレッテルさえ貼れば、捜査も逮捕も裁判もなくどんな人権蹂躙でも可能であり、幼児や小学生でもいつでもどこでも射殺、爆殺することができます。それが現在ガザで起こっていることです。そしてそれは今にはじまったことではなくイスラエルのパレスチナ占領地では日常的に起こっていることです。

今回のガザ戦争はそれが可視化されたものに過ぎません。イスラエルの人権組織B’TSELEMは2000年以降2023年9月末までのイスラエルによるパレスチナ人殺害とパレスチナ人のイスラエル人殺害を完全データベース化しています。それによるとパレスチナ人側の死者が10672人であるのに対してイスラエル人の死者は1330人ですが、イスラエルはパレスチナ側の暴力を「テロ」と呼び、その8倍のパレスチナ人の死を「自衛」として正当化しています。

ブッシュの「対テロ」戦争を容認してからの欧米主導の「国際秩序」、「自由民主主義国家」の正体は、自分たちの既得権、現行の秩序の不正な利権構造の既成事実に異を唱える告発者を「テロリスト」と呼ぶことで都合が悪い批判を封殺し、それでも抗い続ける者は物理的に抹殺しておきながら、口先では「人権」を唱えて自分たちの「西洋文化」の押し付けを拒否する異文化の他者を抑圧的に支配するダブルスタンダードの「仮面をかぶった文化植民地主義者」に過ぎません。