国連を機能不全に陥らせてきたのはアメリカ

トルコのエルドアン大統領は、イスラエルのパレスチナ人虐殺を非難し即時停戦を訴え、欧米諸国は自分たちがユダヤ人の民族浄化(ホロコースト)を行った負い目からイスラエルへの非難を控えている、と欧米を批判しています。

しかし実は問題の根本はキリスト教がローマの国教になって以来、ナチス・ドイツによるホロコーストに至るまで、ユダヤ人を差別し間歇的に迫害し続け、ナチス・ドイツが滅びると、責任を全てナチスに押し付け、キリスト教ヨーロッパ諸国における異分子であるユダヤ人を追い出しパレスチナに押し付けることで「ユダヤ人問題」を解決しようとしたことにあることを指摘しているのです。

また「イスラエルは便利に利用されているだけで用が済めば切り捨てられる駒である」とのエルドアン発言は、欧米諸国が、オスマン帝国を滅ぼすために帝国内のスラブ系諸民族、ギリシャ人、アラブ人、クルド人などの諸エスニシティ集団にナショナリズムを植え付け叛乱(独立運動)を焚き付け「テロリスト」に仕立て上げて、オスマン帝国への「テロ」活動を指嗾したことを承けています。

しかしオスマン帝国が滅び第一次世界大戦で勝利すると、欧米(英仏)はクルド人やアラブ諸国の独立への約束は反故にし、委任統治の名の下に植民地支配を続けました。そしてイギリスはアメリカを戦争に引き入れるために、ユダヤ人貴族院議員ロスチャイルド卿を通じてアメリカのシオニスト機構に、勝利の暁にはユダヤ人がパレスチナに入植地(National home)を持つことを認める約束をしました。

その結果としてアラブの独立を先送りして、イギリスの委任統治下でパレスチナにユダヤ人の入植地を増やしていったことが現在のイスラエル/パレスチナ問題の発端になっています。

11月13日にイスラエルのヨルダン川西岸における入植は違法であり和平の障害となっているという国連総会決議が賛成145、反対7で採択されましたが、反対したのはイスラエル以外ではアメリカ、南太平洋島嶼3国、カナダ、ハンガリーだけでした。翌14日トルコ国会議長ヌマン・クルトゥルムスが「国連はゴミ箱に捨てられた機能不全の組織」と酷評しました。

これは拒否権を持つ国連安全保障理事会常任理事国アメリカが必ずイスラエルを無条件に支持してイスラエルに対する安保理制裁決議を通させないので、国連がイスラエルのいかなる無法行為も止めることができないことを指しています。事実、12月8日には安保理理事会は人道目的の即時停戦を求めるアラブ首長国連邦が提出した決議案を採決しましたが、理事国15カ国のうち13カ国が賛成したにもかかわらずアメリカの拒否権発動で廃案になっています(英国は棄権)。

ウクライナ戦争で、常任理事国のロシアの拒否権でロシアに制裁が科せられないことで、欧米は国連の機能不全を言い立てましたが、アジア・アフリカの国々の大半はロシアに対する欧米と日本のロシア制裁に同調しませんでした。

アジア・アフリカ諸国のこの醒めた態度の背景には、これまでも国連加盟国の総意を無視して拒否権を使って国連を機能不全に陥らせてきたのはイスラエルへの制裁案を全て葬ってきたアメリカであることが周知の事実だったからです。

実はアメリカの「異常な」イスラエル支援(偏愛)は世俗的合理性では説明できない「異常な」理由によるところが大きいのです。それがイスラエル国家の建設は聖書に予言された最終戦争によるキリストの再臨と世界の終末の前兆であるとみなし、イスラエルのメギドの丘で最終戦争(ハルマゲドン)を起こすことでキリストを再臨させようと望んでいる「クリスチャン・シオニスト」と総称される危険なカルトの存在です。

クリスチャン・シオニストは統一教会などとは比べ物にならない危険なカルト集団ですが、彼らもイスラエルのためではなく、自分たちの宗教的信念のためにイスラエルを利用し、イスラエルだけではなく全世界を最終戦争に巻き込もうとしています。

ちなみにイスラエルにまで行って、ガザに落とされる爆弾に「イスラエルよ永遠なれ」などと日本語の祈りの言葉を嬉々として書き込む動画が世界中に配信されて有名になった日本の極右カルト「キリストの幕屋」もこうしたクリスチャン・シオニストの変種です。

ガザを想う 帝国の智慧と欧米のダブルスタンダード_2
撮影=三好妙心