既存顧客の維持は5倍お得

消費者にとって、「解約大困難時代」はただただ迷惑で不都合しかない。ではなぜ企業側が、こんな明らかな迷惑行為を仕掛けてきているのかというと、それは「既存顧客の維持のほうが新規顧客の獲得と比べて、はるかに楽でコストパフォーマンスに優れているから」だ。具体的には、企業にとって既存顧客の維持は、新規顧客の獲得よりも5倍お得とされている。

マーケティングの通説的なロジックに、「1:5の法則」がある。すでに利用経験のある顧客にもう一度利用してもらうコストを1とすると、まだ利用経験のない消費者に新しく利用してもらって顧客とするコストは5になることが指摘されている。

つまり、「1人に利用させる」という目的を達成するうえで、既存顧客を維持するほうが5倍お得になるわけだ。「1:5の法則」に合わせて、「5:25の法則」もある。これは、既存顧客が離れていくのを5%改善できれば、利益率が25%も改善される、という指摘だ。

もちろん、理論と実際のビジネスが常に一致するわけではなく、こうした数字は絶対的なものではない。だが多くの場合において、企業にとって既存顧客の維持が極めて重要な課題になっていることは確かだ。サブスクのようにライバルの増加や成長が著しく、激しい競争環境であれば、既存顧客の維持は間違いなく最重要課題の1つとなる。

〈解約大困難時代〉「サブスクやめにくい」…退会フォームが見つからない、電話がつながらない…まるで“退会迷路”をつくる企業側の意図とは_2

サブスクの中でも、特にスポーツの試合配信に強みを持つサービスは、オフシーズンという明確な弱点を抱えている。オフシーズンの利用者離れを食い止めるために、既存顧客がやめにくい仕掛けを講じるのは企業側の理屈としてはシンプルだ。

しかし、利用者離れを食い止めるという目的のために、「やめにくい仕掛けを講じる」のか、「やめたいと思わせない工夫を講じる」のか、には大きな違いがある。どちらを選ぶかで、その企業の姿勢や価値観が浮き彫りになるだろう。

スポーツ系のサブスクならば、オフシーズンがあることはあらかじめわかっているのだから、オフシーズン用の割引価格を事前に用意しておいたり、利用者の心を離れさせない工夫を講じるべきである。