夫は私を信じてくれていたので、それがせめてもの救いでした
大事になってしまった。
「そのうち、晴恵ちゃんからこんなことを言われました。もう不倫が本当かどうかの問題じゃないって。みんな、あなたのことが信用できなくなっているって。それに自分が紹介した人が原因で社内の雰囲気がぎくしゃくするようになっていることに耐えられないって、泣かれてしまいました。そんな晴恵ちゃんを見て、これ以上迷惑は掛けられないと思って、それで辞めることにしたんです。誤解を完全に払拭できなかったのは悔しかったけれど、もうどうしようもありませんでした」
後味の悪い結末でしたね。
「夫は私を信じてくれていたので、それがせめてもの救いでした。次の仕事を見つけて心機一転頑張ろうとしたんですけど、やはり3年ぐらいは引き摺りましたね。人が信じられなくなったし、陰で誰に何を言われるかと思うと怖くて。今も何かの拍子にあの時のことが思い出されて、嫌な気分になります」
生きていれば理不尽な扱いを受けることもある。
さぞかし悔やしい思いにかられただろう。
ふた月ほど前のことなんですけど、実は私、余命宣告されまして
「あの、話はここからなんですよ」
不意に郁代さんが言った。
「ふた月ほど前のことなんですけど、実は私、余命宣告されまして」
えっ……。
思わぬ言葉に目を見開いてしまった。
「7年前に大腸がんが見つかったんですけど、その時は初期で、手術をして、ずっと経過は良好でした。だから安心していたんですけど、再発が判明したんです。もう肺にも肝臓にも転移しているとのことでした」
言葉を失ってしまう。
「そりやあショックでした。孫たちの成人式くらいは見届けたいと思っていましたから。でももう手の施しようがないことがわかって、覚悟を決めました。もって1年半とのことです」
そうですか……。
「ただ、私以上に夫がショックだったようです。まさか私が先に逝くなんて考えてもいなかったんでしょうね、私以上に落ち込んでしまって」
何と言っていいものか……。