高校バスケ界で起きてしまった留学生の年齢詐称問題

私は以前から日本の高校、大学スポーツにおける留学生の参加については、レギュレーションをしっかり設けるべきだと考えている。

たとえば、高校バスケでは留学生の年齢詐称問題で、優勝が取り消しになったケースがある。

インターハイで2004年に優勝し、05年にも3位に入った福岡第一高校には、当時、セネガル人の留学生がいた。ところがその留学生に年齢詐称があったとして、全国高体連はこの2年間の福岡第一の成績を抹消したのである。

なぜ、こんなことが起きたかというと、この留学生は1982年1月4日生まれだったが、名前を変えて別人になりすまし、86年10月4日生まれのパスポートを取得していた。2003年4月に福岡第一に入学した時は、既に21歳だったのだ──。

日本では考えられないことだが、出生届の制度が整っていない国では、こうしたことが起こり得る。これが罷り通っていては、スポーツの大前提であるフェアネス、公平性を担保できなくなってしまう。

箱根駅伝で留学生がいるチームが優勝したのは過去3回のみ…俊足の留学生選手が優勝に絡むファクターにはなりづらい理由_2
すべての画像を見る

スポーツにおけるボーダーレス化時代の留学生の在り方

箱根駅伝に関していえば、初優勝した際の山梨学院には2区にジョセフ・オツオリ、3区にケネディ・イセナと2人の留学生がいた。2位の日本大学との差は3分47秒。2人の存在はあまりに大きかった。

翌年からレギュレーションが変わり、レースに出場できる留学生は1人となった。

1993年の箱根では、山梨学院・ステファン・マヤカ、早稲田・渡辺康幸の2人の1年生が2区を走り、激闘を繰り広げた。櫛部、渡辺、花田、武井と未来の国際級のランナーをそろえた早稲田がいなければ、山梨学院は4連覇を達成していただろう。

早稲田の選手たちに「マヤカに対抗しなければならない」という思いがあったからこそ、その後の成長が促された面は否定できない。つまり、留学生の在り方が日本の競技力を上げた可能性はある。

ルール、レギュレーションの運用の仕方によって、試合、大会の価値、面白さは変わってくるが、それが強化に結びつくか否か、ということもレギュレーションを定めるにあたって、大きなファクターとなる。

21世紀は、スポーツにおけるボーダーレス化が進んでいる時代でもある。

他の競技に目を移してみると、ラグビー日本代表に対して「代表とはいっても外国人ばかりじゃないか」という声があったのも事実だ。

しかし、2015年にリーチマイケル主将のもと、ワールドカップで南アフリカを破り、そして19年の日本大会で8強に進出したことで、様々な国の選手が日本代表のジャージを着ることに違和感を覚える人が少なくなったのは事実だろう。

それと同様、陸上界で生まれた日本とアフリカのつながりは、いまはポジティブな方向へ進ませることが大切だ。

東京国際大のスーパーなエティーリの存在が、駒大の佐藤、中大の吉居駿恭、順大の吉岡らにどんな影響を与えていくのか、観察をしていきたいと思う。


文/生島 淳 写真/Shutterstock

#2『第100回箱根絵駅伝もナイキのシューズだらけか!? 選手たちのランニングフォームに画期的変化を起こした厚底革命の勝利のゆくえ』はこちらから

#3『これからの箱根駅伝は、中央と順天堂の時代がやってくる!? 藤原監督は1981年生まれ、長門監督は84年生まれ。30、40代の指導者がいよいよ大暴れの予感』はこちらから

#4『箱根駅伝が圧倒的な“コンテンツ”になった弊害とは。「関東以外の大学が勝つことは100%ない」2024年記念大会では全国の大学にチャンスがあるのになぜ?』はこちらから

『箱根駅伝に魅せられて』 (角川新書) 
生島 淳 (著)
箱根駅伝で留学生がいるチームが優勝したのは過去3回のみ…俊足の留学生選手が優勝に絡むファクターにはなりづらい理由_3
2023/10/10
¥990
240ページ
ISBN:978-4040824673
箱根駅伝100回大会。歴史と展望を存分に味わう一冊

正月の風物詩・箱根駅伝では、100年の歴史の中で数々の名勝負が繰り広げられ、瀬古利彦(早稲田大)、渡辺康幸(同)、柏原竜二(東洋大)らスター選手、澤木啓祐(順天堂大)、大八木弘明(駒澤大)、原晋(青学大)ら名監督が生まれてきた。
今やテレビ中継の世帯視聴率が30%前後を誇る国民的行事となっている。
なぜここまで惹きつけられるのか――。45年以上追い続けてきた著者・生島淳がその魅力を丹念に紐解く「読む箱根駅伝」。

100回大会を境に「中央大・順天堂大の時代」が来る――!?

99回大会で「史上最高の2区」と称された吉居大和(中央大)、田澤廉(駒澤大)、近藤幸太郎(青学大)の激闘の裏には、名将・原晋が思い描いた幻の秘策が隠されていた――。

入学時からマインドセットが違った絶対的エース。
柏原竜二(東洋大)「勝負は1年生から」
大迫傑(早稲田大)「駅伝には興味はありません」

渡辺康幸(早稲田大)VSマヤカ(山梨学院大)
竹澤健介(早稲田大)VSモグス(山梨学院大)
田澤廉(駒澤大)VSヴィンセント(東京国際大)
留学生の存在がもたらした「箱根から世界へ」

箱根史を彩る名選手、名監督、名勝負のエピソードが満載。

【目次】
はじめに
第1章 箱根を彩る名将たち
第2章 取材の現場から1
第3章 取材の現場から2
第4章 駅伝紀行
第5章 目の上のたんこぶ
第6章 メディア
第7章 箱根駅伝に魅せられて
おわりに 
amazon