病気の人間ほど「自分は病気じゃない」と言う

――厳しい現実ですね。

京都アニメーション放火殺人事件の青葉(真司被告)だって、言動を聞けば聞くほど統合失調症じゃないかと思われる。なのに、あそこまで大きなことにならないと、問題として上がらない。だから、もう他人事じゃないんですよ。

――一方で、精神障害ではないにもかかわらず、強制入院させられたとしてひきこもり患者が病院を訴えた事件がありました。精神科病院が裁判に負けて308万円の支払いが命じられましたが、この件について押川さんの見解を聞かせてもらえますか?

精神保健福祉法には、3つの入院形態があります。自ら入院しますという「任意入院」、家族等の同意と精神保健指定医の判断で、本人の意思と関係なく入院できる「医療保護入院」。そして、自傷他害のおそれがある場合に、最終的には都道府県知事(もしくは政令指定都市の市長)の権限で強制的に入院させる「措置入院」です。最近は患者の人権を無視しているとして、この医療保護入院を廃止しろという動きがあります。

ただ、私が矛盾を感じるのは、重篤な精神疾患患者の特徴として本人に病識がないことがあります。病識のない人たちの入院治療の窓口をなくすということは、本人が「病気ではない」と言えば、未来永劫、医療につながることがないということ。。私に言わせると、病気の人間ほど「自分は病気じゃない」と言いますよ。

「警察や保健所に頼んでも埒があかん」日本で最高の精神科治療が受けられるのは、刑事責任能力のない人たちが収容される施設だという皮肉_3
『「子供を殺してください」という親たち』「親を許さない子供たち」より

――この裁判では、患者自らが会見を開いていましたね。

そもそも、これだけの会見ができる人は、病識を持てるはずですよ。そういう人を入院させればこういうことになるでしょう。うちだったら、最低でも行政、病院、警察の3か所と、あとは近隣の方々。誰が見ても間違いなく「精神疾患」だという証拠を得ていない限りは、いまはもう医療機関には繋げられないですね。