強制性交等罪、女性は
「全年齢にわたって被害」に比べて、
男性では「低年齢」が多く
このように考えると、男児の性暴力被害を我々が見つけることが難しくなる段階はいつ頃かという問題が見えてくると思います。筆者(宮﨑)の調査では、男性に限らず最も不快な性暴力被害の体験は20代未満で多く起きています。その被害を男児が開示しない傾向、あるいは開示までに長期化する傾向が、女児に比べて高いということはいくつかの研究でも指摘されており、それを裏付けるような結果も得られました。
被害開示を妨げる要因として、性的虐待経験を持つ男性では次の3点が挙げられます。①ジェンダー規範といった社会政治的障壁、②内在化したホモフォビアといった個人的障壁、③「女性化」といった対人的障壁です。
当然のことではありますが、第三者が関わる被害開示において、第三者のジェンダーやセクシュアリティに対する偏見が強い影響を及ぼしています。被害は確かに起きているのですが、男性や男児のほうが被害開示を行わない傾向があるために被害実態が知られにくいのです。
例えば、高校1年生の男子がバイトからなかなか帰ってこず、帰宅したのは深夜でした。事情を聞くと、バイト先で一緒の女子大学生の家にいたのだと言います。これを聞いた保護者は何か危ないことをしたのではないかと不安になりました。ここで想定されているのは、男子高校生が女子大学生とセックスしたのではないかという危惧です。またその際には、男子側が挿入の主体として、ある種能動的で加害性を帯びた行為をしたのではと考えられています。彼が無理やりセックスを強要されたり、性的な関係に持ち込まれた可能性は考えにくいからです。
また一方では、14歳のゲイ男性が40代の男性にホテルに連れ込まれ、挿入を伴う被害に遭った例があります。性的指向が明らかになることの危険によって本人による被害の開示が抑えられることに加え、それが明らかになったのちも「本人が性行為を望んでいたのではないか」という性欲の問題として捉えられ、重大な被害としては捉えられづらい場合があります。
男児の性暴力被害とは、その性別を持つ個人の要因が問題なのではなくて、我々が見つけられないこと、認識しにくいことが問題だと言えます。男児は十分に男ではないとして、挿入される側として見られることがあります。それは、幼さや弱さといった女性的とされるものがあるからでしょう。
強制性交等罪では女性の場合が全年齢にわたって被害があるのに比べて、男性では低年齢のほうが多くなっています。また、この傾向は強制わいせつでも同様に見られます(56ページの図参照)。
先ほどの国立研究開発法人産業技術総合研究所の調査では、男児は4歳頃から17歳頃までの被害報告があり、14歳頃を最頻値とする女児とは異なり、6歳から9歳頃が被害報告数のピークとなっています。また、「男児の被害事例では、発覚経緯が本人の開示である場合が相対的に少なく」「外部による発見が構成比として過半数を占める結果となっている」とあります。
これまでのデータから単純に結論づけることは難しいですが、もしかすると、第二次性徴が始まる頃の年齢から、男児の性暴力被害は見つけにくくなっているのではないでしょうか。
第二次性徴は身体的にも性的にも成熟する過程です。その中で男子は成人男性の身体を持ち始めています。精通を迎え、妊娠させることができる身体という加害性を付与されるようになります。
つまり思春期の男子は、第三者の視線からすると、無垢な子どもとして守られる範疇と加害性との間の不安定な状況に置かれていると考えられると思います。
子どもの被害を発見すべき、大人の側の問題として考えると、我々が子どもをジェンダー化する視線によって、年齢が上がるにつれ性暴力被害を見つけにくくなるという可能性があるのではないでしょうか。
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