「男の子だったらこれくらい大丈夫」という感覚

日本では男の子の性暴力被害がどれくらい起きていると考えられているのでしょうか。事件化される性犯罪は性暴力被害のごく一部の行為しか対象にしていませんし、それがすべて立件されるわけでもないので正確に表しているとは考えられませんが、認知件数を2022年のデータで見ると、男性の強制わいせつ被害では8割ほどが10代までにあり、強制性交等被害では6割以上が10代までにあることが確認できます。

「男の子だったらこれくらい大丈夫」という落とし穴。1年間に7万2000人余りの男の子が性暴力被害の衝撃…なぜ日本では男児への性加害は深刻視されてこなかったのか_4

また、国立研究開発法人産業技術総合研究所がこれまでの日本での研究をもとに概算したところ、1年間に7万2000人余りの男の子が何らかの性暴力被害に遭っていると言います。これは衝撃的な数字ではないでしょうか。驚きを感じるのは、それが私たちの直感と一致していないからです。男の子が稀に性暴力被害に遭うことがあるかもしれないとは思いつつも、これだけ多くの被害が起きている事実があるとは想像できないのかもしれません。

心身共に成長過程にある子どもが、自分の身に起きた性暴力を理解できないことや、それを大人に相談したり訴えたりすることが難しいのは、簡単に想像できることだと思います。ですから、大人が子どもを守り、性暴力の発生に気づけるようになることが必要です。しかし、なかなか男の子の性暴力被害を想定するのは難しいようです。

そこには、「男の子だったらこれくらい大丈夫」という感覚があるからかもしれません。つまり、こういう感覚は大人が子どものことを「男の子」として見るために起きています。そうすると、「女の子」よりも「男の子」の性は軽んじられ、そして性暴力被害に遭う可能性も低く見積もられてしまいます。

男性が加害者として可視化されやすい中で、対照的に使われるのが、「女性と子どもに対する暴力」という用語です。性暴力において女性がその被害者の典型とされ、脃弱性を共通項として仮定した子どもを置くことによって、被害者ポジションに女性を固定化し男性や男児の被害が見えづらくなるということです。

女性と子どもに対する暴力というとき、「子ども」と一括りにされていますが、先述したように、生まれた時点ですでに男か女かに割り当てられています。男の子は、ある種の無垢な子どもの範疇として捉えられている最中は、成人男性に比べて性暴力の被害者として相対的に認められやすいことが考えられます。

しかしすでに生まれた時点から男の子としてのジェンダー化の過程は社会的に進められており、無垢な子どもの範疇から成熟するプロセスにおいて、加害性をまとった大人の男という連続性で我々は見ていくことになります。