「死にたい」男の願望を、刑罰が叶えた
死刑が確定したのならば、「極悪非道な殺人犯を悔い改めさせてから死刑台に送ることが、殺害された被害者へのせめてもの鎮魂である」と多くの刑務官は思っているが、宅間の妻となった女性もそうであった。
あまりにも悲惨な事件に心痛めた女性は、宅間に悔い改めさせようと面会と手紙のやり取りを繰り返した。そもそも女性が宅間の妻になることを選んだのは、死刑判決確定後は戸籍上の親族関係がないと文通、面会、差し入れが一切できなくなるからだった。
家族や周囲の反対を押し切って死刑囚の妻となった女性の思いは、確かに宅間に伝わったのではないか。それだけに私は宅間の死刑執行を知って複雑な気持ちになった。
宅間の内心の変化はさておき、死刑執行の事実だけを見れば、確定から一年後という異例の早期執行である。「死にたい」という男の願望を、結果的に刑罰によって叶えたのだから、似たような無差別殺傷事件や通り魔事件が再発するのではないか、と私はこの時、危惧した。
担当刑務官によれば宅間は、女性との愛によって悔い改めたようであった。その改心に応えるように無期懲役にして、長く仕事をさせて遺族への賠償金を稼がせることは可能だったはずだ。少しだけ法律を変えて、重警備の刑務所を一つ作って運用すればいい。
「塀の中で生き続けることは本当につらいです」
今や終身刑と化した無期懲役刑に服す囚人から私が直接聞いた言葉であるが、生きて罪を贖いたいという死刑囚には、それこそが更生の環境になりうるのではないか。
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