検察が宅間の死刑執行を急いだ理由
「宅間は自分本位ですが、犯した罪と控訴を自ら取り下げたことを悔いていると感じました。死にたくないと思っているのです。自分を取り巻く社会や女性に対する恨みつらみで生きてきた男が、今回の結婚によって人生を閉じたくないと念じています。
ああいう性格ですから、いつまで今の妻に対する感謝の気持ちが続くか分かりませんが、今は幸せの絶頂にいるものと思います。『早く刑の執行をしろ』と騒いでいる間は、死刑を執行されない。死刑になりたいと事件を起こし、そのとおり死刑判決を受けた自分を、国は希望通り早々に殺すわけがないと思っているようです」
この報告が法務省に届いた後、急遽、宅間の死刑執行が検討された。こう書くと、「そのような可変的な感情で安易に人の命が権力によって奪われてしまうのか」と多くの人が驚くかもしれないが、事実、宅間の死刑は確定から一年後という異例の早さで執行された。
検察は事件の記憶が鮮明なうちの、早期の死刑執行こそが世間を納得させると考えているが、実際のところ、これまでの事例では死刑確定から執行までには10年前後かかっている。その原因は、死刑囚の多くが再審請求をしているからであり、また、執行は判決確定順と言った暗黙の秩序に縛られているからである。
この事件で検察が宅間の死刑を急いだのには二つの理由があったと考えられる。ひとつは宅間に対する懲罰的な意味合い。もうひとつは早期執行の前例実績を作ることで、執行順序を撤廃することだ。
日本犯罪史上まれに見る無差別大量殺人事件であれば、世論の大きな後押しも期待できる。まさに一石二鳥と言えた。