「母ちゃん美味いぜ!」
あまりに母が強い人だから大丈夫だと思いこみすぎていたことに気づき、僕はここから、自分のバラエティ人生の中でも3本の指に入るくらいの、大立ち回りをする。
「おい! お母さん落ち込んでるだろ! 冷凍食品がダメとか言うけどな、うちのお母さんは共働きで看護師をやっていて忙しかったんだよ! 3交代で忙しい中、弁当も作ったから、冷凍食品くらい入るんだよ! でもな、身長を一番伸ばしたのはこの弁当だ!」
すると、母は涙を流していた。
看護師時代の母は、朝8時に出て行って夕方帰ってきてから僕たちのご飯を作ったり、準夜勤だと16時から病院に行って0時に家に帰ってきたり、23時に病院に行って朝9時に帰ってくることもある、生活が不規則になる大変な仕事をしていた。
なかなか親への感謝の気持ちなど伝えるタイミングがないから、こんな状況がきっかけといえど、お弁当を3人兄弟分きっちり作ってくれたことに感謝していたと言えて良かったと思ったし、自分が働くようになって、仕事をしながら子育てするなんて凄すぎるな、と感じていた矢先でもあったので、そういう尊敬の言葉がスルスルと出てきた。
たぶん、仕事が暇な頃だったら、そんな言葉は出なかったと思う。
それを言い放った勢いで、スタジオで母のお弁当をバクバク食べて「母ちゃん美味いぜ!」と言うと、母はありがとうと答えてくれた。
この状況がウケたので、これで何とかなった! と思いホッとしていると、周りの他の芸人のお母様がみんな泣いていた。
これで番組的なオチもついて、結果的には全てが上手くいった。
ここまで読んでもらったら、自分の好感度も上がるような気がするけれど、この大立ち回りをしたのは、過去に家族に嘘をついて芸人になり、母を泣きながら膝から崩れ落ちさせたことがある男と同一人物なので、お忘れなく。
文/田中卓志
写真/shutterstock