濾過して薄くなったプロレスなんて、お客さんは見たくない

プロレスラーのように強い人間になりたいと思い、高校卒業後アルバイトをしながら電車で1時間かかるゴールドジムに通い、ウエイトトレーニングや柔術に取り組んだ。竹下と一緒に鍛えるようになった。

「なにもかもが面白かった。迫力もすごかった。衝撃的だった」天才レスラー上野勇希に刺さったプロレスラーのむき出しの“なにか”_4

1年後、DDTの入門テストを受け、結果は見事合格。2016年10月17日のDNA新宿FACE大会、樋口和貞戦でデビューした。しかし、デビューしたからといって自分がプロレスラーになったとは思えなかった。「プロレスはすごいものであり、プロレスラーはすごい人である」という理想に近づくために、ただただ一生懸命だった。

そこから4年後の2020年11月3日、DDT大田区総合体育館大会にて、クリス・ブルックスを破り、DDT UNIVERSAL王座を奪取。最年少戴冠した上野はその後6度の防衛に成功し、最多防衛記録を樹立した。それでも彼が自分のプロレスに満足することはなかった。

「悔しいときは『悔しい』と言葉にはしてたけど、自分の感情は、本当はもっと濃いはずなのに、それを見せるのは恥ずかしかったり、伝わりが悪いんじゃないかと思って、ファンが見やすいように自分で濾過していました。でもそんなものに価値はないし、僕が濾過して薄くなったプロレスなんて誰も見たくないんだと、あるとき気づいたんです」

「なにもかもが面白かった。迫力もすごかった。衝撃的だった」天才レスラー上野勇希に刺さったプロレスラーのむき出しの“なにか”_5
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きっかけは2022年3月26日に行われた、アジア最大級の格闘技イベント・ONE Championshipの10周年記念大会『ONE X』シンガポール大会。青木真也と秋山成勲の因縁の対決だった―。

#2 上野勇希を変えた「青木真也vs秋山成勲」の衝撃に続く

取材・文/尾崎ムギ子
撮影/林ユバ
プロレス試合写真/ⒸDDTプロレスリング
撮影協力/ゴールドジムイースト東京店

『Ultimate Party 2023』
■日時:2023年11月12日(日) 開場12:30 開始14:00
■会場:東京・両国国技館
■特設サイト:DDTプロレスリング公式サイト (ddtpro.com)