DDTプロレスリングの大会前、会場で長蛇の列を目にすることがある。「誰のサイン会だろう?」と思って目で追うと、そこには大抵、にこやかにファンと触れ合う上野勇希がいる。
ファンサービスは神対応でプロレスも強くルックスもいい。欠点を探そうとするも見当たらない。その完璧さゆえにあまり人間味がなく、クールでドライな、感情をあまり表に出すことがないレスラーだと思っていた。
しかし2023年7月23日、両国国技館大会でクリス・ブルックスが初めてDDT最高峰のシングル王座であるKO-D無差別級王座のベルトを巻いたとき、上野がリング上で号泣する姿を見て、完全に心を持っていかれてしまった。
「プロレスと出会うまで、自分は人間が腐ってると思っていました」
いま女性ファンを虜にしてやまない、イケメンレスラー、上野勇希の素顔に迫る―。
母子家庭というコンプレックスからどこか冷めていた
上野は1995年大阪府八尾市に生まれた。両親は幼少時に離婚。母に引き取られ、3つ上の兄、2つ上の姉と共に育った。母が働いている間は、近所に住む祖母に面倒を見てもらった。
父親がいないことへの寂しさはなかった。母がいてきょうだいがいて、犬も2匹いる。賑やかな環境のなか、上野は愛されて育った。
しかし、ふとしたときに「自分は母子家庭なんだ」と感じた。幼稚園で「お父さんの絵を描きましょう」と言われたときや父母参観の日、「自分は人とは違う」と感じることがあった。
「昔から明るい性格なんですけど、どこか冷めているというか。斜に構えてしまって、全力でその空気を楽しめない。母子家庭ということがコンプレックスでした」
子供のころから運動が好きで、放課後はドッジボールや鬼ごっこに明け暮れた。中学は陸上部、高校は器械体操部。サッカーや野球などの団体競技よりも、個人競技が好きだった。他人の影響を受けず、自分のパフォーマンスだけで勝負する。「感覚的にはプロレスに繋がっています」と話す。