口外しないようという文言を連ねた念書にサイン

こうしたハラスメントに悩んでいたのは、生徒たちだけではない。ヤマモトさんは自身が退職に追い込まれた経緯も詳らかに語った。

「正直な話、宝塚は『外の世界を知らない人』じゃないと続けられないような環境でした。私は契約社員として働いていましたが、1つの公演が終わるとすぐに次の公演の準備に取りかかるので、1カ月くらい休みがなかったり、深夜まで働かされることもしょっちゅうで、お給料の面でもコンビニバイトのほうが待遇がよいと思うような状況でした」

こんな状況のなか、ある上司が徹底的にヤマモトさんを追い込んだという。

「長時間労働も重なって体力も限界なのに、飲み会の席にも無理やり連れていかれ、稽古場では、みんなの面前で罵倒するのです。それも『お前はできへんやつやな』とか『邪魔だけはせんとってな』『できへんやつはできへんな』などと人格を否定するような内容です。その上司は組Pや他の劇団スタッフよりも権限があったので、私は誰にも相談できませんでした」

宝塚大歌劇場(撮影/集英社オンライン)
宝塚大歌劇場(撮影/集英社オンライン)

そのためヤマモトさんには自主退職するしか道が残されていなかったという。

「頼れる人も見つからず、精神的に追い詰められて、劇団の総務部に『体力的にキツイのでやめたいです』と伝えました。この上司からのパワハラが原因であることは担当者も分かりきっていたはずなのに、彼は原因も聞かずにこう言いました。『(パワハラのことは)誰にも言わんとってな』。私以外にも現場がイヤで辞めていく契約スタッフを何人も見てきました。劇団は週刊誌や外部に恨みつらみを話しそうなスタッフには、退職時にボーナスを払ったり、口外しないような文言を連ねた念書にサインをさせることもありました。 
私はこうした宝塚の隠ぺい体質が、Aさんの事件とは無関係とは思えません。イジメ報道があったときに運営側がしっかりと対処していれば、最悪の事態は避けられたのではないかとも思うんです」

宝塚歌劇団にヤマモト氏が証言した団員同志のいじめの有無やスタッフの過重労働、パワハラ、金銭を渡す口止め行為について質問状を送ったところ、メールで以下の回答があった。

「退団した団員のいじめの有無についてはプライバシーの観点から回答を差し控えさせていただきます。
(過重労働については)繁閑により 1 日の労働時間は異なりますが、労働時間は法令で定められた範囲内であり、所定時間を超えるものについては適切に手当を支払っています。
(パワハラの有無、念書の存在や口止め行為については)退職したスタッフはおりますが、退職理由についてはプライバシーの観点から回答を控えさせていただきます」

華やかな舞台で白鳥のように舞うために、水面下で必死に足を掻き続ける乙女たち。Aさんを水底に沈めたブラックスワンは何だったのか。悲劇を繰り返さないために何が必要なのか。膿を出し切る徹底的な検証が求められる時期は、とうに来ている。

亡くなったAさん
亡くなったAさん
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

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