5類引き下げ後も頑なに人数制限を続けた真の狙い

この仕組みを可能にするために必要なポイントはたった1点。それは参加する記者の人数を一定数に抑えることだ。実は、今年5月の新型コロナウイルスの5類引き下げに伴って首相会見の参加記者の上限は約3年ぶりに引き上げられた。

しかし、それでも最大48人に抑えられてしまい、コロナ禍前(100人弱)と比べれば今も大きな隔たりがある。

出典:筆者が開示請求で入手した、官邸報道室による5類移行後の首相会見態様に関する通知(2023年6月9日付)。ちなみにジャニーズ会見で大手メディアが批判した「1人1問ルール」も明記されている
出典:筆者が開示請求で入手した、官邸報道室による5類移行後の首相会見態様に関する通知(2023年6月9日付)。ちなみにジャニーズ会見で大手メディアが批判した「1人1問ルール」も明記されている
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ちなみに5類移行後の48席の内訳は以下だ。

19席:内閣記者会 常勤幹事社19社から各社1名ずつ *従来通り
19席:内閣記者会の抽選当選者 *増加分に相当
10席:外国プレス、フリーランス等の抽選当選者 *常勤幹事社以外の内閣記者会(ラジオ・地方メディア)が増加分に移ったことを除いて従来通り

この変更に伴って座席レイアウトは4列目が新設されたが、席への案内を要する記者が僅か10名であることは変わらないため、職員の負担に大きな変化はない。

政府は5類引き下げによって「コロナは終わった」という空気を醸し出しておきながら、感染症対策を理由に始めた総理大臣会見の人数制限は都合よく継続していることになる。なぜここまで露骨な矛盾を放置するのかが理解できず、筆者はこれまで官邸報道室と内閣記者会による調整の経緯について開示請求もしてきた。

しかし、官邸報道室は開示文書の交付時に異動から僅か6日しか経過していない職員1名にあえて対応させるなどの小細工を用いてまで詳細な説明を拒んだため、原因の特定には至らなかった。
*開示請求結果の詳細は筆者のtheLetter「【独自】感染症対策を悪用した首相会見の人数制限(3)」(2023年9月13日)参照

しかし、今回のジャニーズ事務所の指名NGリストをヒントに首相会見における一連の出来事を整理した結果、ようやく腑に落ちた。座席表に基づく指名コントロールを続けるためには、参加人数を可能な限り少なく抑えることは必要不可欠な絶対条件だったのだ。

仮に首相会見の参加記者がコロナ禍前のように100名弱まで膨れ上がった場合、個人単位の座席表を事前作成して席次通りに着席させるのは現場オペレーションや職員の負担の面から見て現実的ではなくなってしまうからだ。

現に約300人が参加した問題のジャニーズ事務所の10月2日会見では、事前申し込みは必要だったものの着席位置は自由。そのため指名NGの記者がどの席に着席したかはスタッフが目視確認して、特徴(服装、髪型等)と共に情報共有したと見られる。

だが、参加者が300人ともなればこうした人海戦術には限界が出てくる。結果、司会者(元NHKアナ 松本和也氏)は会見途中に「だんだん顔を覚えられなくなってきました」という意味深な発言をし、本来は指名NGの記者まで指名してしまった。

一方、指名NGリストを作成せずとも不都合な質問をする記者の指名を回避する仕組みを確立させた総理大臣会見は、問題のジャニーズ事務所会見の悪い意味での進化形といえるのではないか。

また、大手メディア各社は、ジャニーズ事務所の会見での「指名NGリスト」を鬼の首を取ったかのごとく批判的に報じているが、自らが内閣記者会常勤幹事社として(形式的とは言え)主催する総理大臣会見で不都合な質問をする記者たちの実質的な指名NGを長年にわたって黙認していることは壮大な矛盾でもある。

文/犬飼淳