大人の監視下にいることだけが子どもを育むわけではない
この撤回発表に埼玉県在住で小学校の教師を務めながら現在妊娠6ヶ月の女性、Aさん(30代)は安堵した。
「いま現在、少し貧血などの症状はあるものの健康なので、今年12月までめいっぱい働き、来年2月の出産に備えようと思ってた矢先に、この改正案が出てお先真っ暗になりました。職場復帰のタイミングや学童問題など一気に不安が増え、どうしたものかと…」
Aさんはふだん、小学校で子どもやその親、学童施設とも密に連携しており、子供の留守番を禁じる改正案については危機感をひしひしと感じていた。
「仮に改正案が通っていたら、親御さんと共に負担がかかるのは学童です。学童と一言で言っても市や区で運営している施設から民間で経営されている施設までさまざまです。それら施設のすべてに問題があるとは言いませんが、ただでさえ職員不足で子どもへの目が行き届かずにイジメや怪我などのトラブルが少なくないばかりか、学童での問題を学校にクレームしてくる親御さんもいる。そこに新たな児童を受け入れる程余裕はありません。
子どもによっては学童に行きたくないからと不登校になり、家で留守番させるようになってからははつらつと学校にも再び通えるようになったケースもあります。必ずしも大人の監視下にいることだけが子供を育むわけではありません」
今回の急な撤回に、野本怜子埼玉県議員もこう苦笑する。
「13日の本会議で採決される予定でしたが、我々反対派はどうにかしてこれを食い止める方法はないものかと、それまでに反対派を募ることができないかと考えていたところでした。今回のような改正案が決まってしまったら、未だ女性に育児の負担が多い日本においては“子供の自立にもつながる留守番やお使いが虐待になってしまうのか”という心理的な負担を増やすことになってしまう。そうなるとますます家庭を追い詰め、かえって新たな虐待の起因を作ってしまいかねない。撤回されてホッとしています」
また、ある埼玉県議員は言う。
「昨今の自民党は条例を作ることが議員の務めだという傾向にあるようです。LGBT法案にしろ、エスカレーター歩行禁止の条例化にしろ、議員から条例案を提出させることを盛んにする動きがあります。そのような条例作りばかりが先走り、本当に大切な、生きやすさ住みやすさを損なう内容では困ります。『翔んで埼玉』のようなディスり映画は愛あってのものでしたが、埼玉が本当に住みにくい、逃げ出したくなるような悪い県にならないことだけ願いたい」
この撤回発表で、「逃げろ埼玉」にならずに済んでなによりだ。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班