「仕事だからやってるんでしょ?」の言葉に動かされ
藤田氏が、一般社団法人を立ち上げたのは2021年12月のことだ。「れもんハウス」の運営を始めるために法人を立ち上げた。もともと福祉の仕事をしていた藤田氏は神奈川県の出身。幼少期を地元で過ごし、国際基督教大学を卒業後、社会福祉士の資格を取るため1年間専門学校に通った。実習先だった都内の母子生活支援施設にそのまま就職。そこで藤田氏は、支援が必要な母子家庭のサポートをしていくことになる。
「病気やDVから逃げてきた母子、離婚した直後で経済的に立て直す必要があるなどの諸事情を抱えた母子が施設で暮らしていました。そこで生活の困りごとに関する相談にのったり、お部屋に行って一緒に掃除をしたりご飯を作ったり、生活全般についてサポートをしてきました」(藤田氏)
福祉に興味を持っていた彼女は、次第に仕事にのめり込んでいく。だが、施設での経験を積む過程で、“無力感”のようなものを感じることが度々あったと振り返る。あるとき、施設で暮らす幼児の親が、子どもを連れて家出をした。急いで探して見つけたそのときに母親が放ったこんな一言が今も忘れられない。
「仕事だからやってるんでしょ?」
利用者の家族にとって身近な存在でありたいと思っていても、施設の職員であることで、そこに壁ができてしまうのも無理はない。
「本当の気持ちはわからないけど、『仕事だからじゃないよ』という私の気持ちを確かめたかったのかもしれません。仕事である前に、私にとってあなたが大事な存在だっていうことが、どうしたら相手に伝わるのかを考えるようになりました。一方で、施設の職員である以上、その制度や枠組みの中で対処せざるを得ないことがあるのも事実。施設だからこそできることもあります。しかし、もっと自由に、もっと気楽な関係で利用者の方に寄り添うことはできないのかなと、ぼんやりと考えるようになったんです」(藤田氏)
そんなとき、藤田氏が偶然ネットで見つけたのが、この古びた一軒家だった。“居場所”を自分で作ってみたいと思い始め、何となく見た不動産情報。広いリビングと小さな庭付きの物件に魅せられ、彼女はすぐに見学を申し込んだ。
「そこからオープンまでは早かったです。知人の紹介で、シングルマザーの居住支援事業もしている建設会社の社長さんとお話しをしたら、とても共感してくださりました。そしてその会社が物件を購入した上で、私が立ち上げた社団法人が賃貸契約すると言うスキームを作ってくださったんです。
私も母子生活支援施設を退職。今もそこではパートとして同じ施設で働かせてもらっているのですが、同時に友人含めた3人が中心になってれもんハウスの場づくりをスタートさせた。現在、ショートステイを受け入れるために手伝ってもらっているかたは20名くらい。ITエンジニアから児童福祉関係の仕事を本業としている人まで幅広くいます。子育て経験がない人も多いのですが、そこはみんなで連携しながら工夫してショートステイの受け入れをしています」(藤田氏)