彼と戦って命を落とした超人は900人とも1000人ともいわれ
謎の怪力女子が胴上げに加わった直後、身長185センチ、体重90キロのキン肉マンの体は、遥か上空に舞い上がり、瞬く間に成層圏を突き抜けた。その勢いで、宇宙空間を漂う〝謎のスペースボックス〟に頭から衝突したのだ。超人たるキン肉マンに、さしたるダメージはなかった。ただ、ぶつかった場所が問題だった。
〈このスイッチ 絶対触るな 宇宙警察〉
キン肉マンは、よりによってそのスペースボックスのスイッチに強烈なヘッドバットをかましてしまったのである。けたたましく鳴り響く警報にも気づかず、キン肉マンは自身の放屁による推進力で地球への帰路につく。全体の形状がロングセラーの害虫駆除用品にも似たスペースボックスの正式名称は「超人ホイホイ」。宇宙警察の機密事項となっている〝収容施設〟だった。
前出のハラボテ委員長が解説する。
「あの中に収容されていた7人の超人は、文字通り悪魔のような連中でね。奴らに比べりゃ残虐超人なんて子供騙しみたいなもんですよ。奴らの超人レスリングはルール無用。ノックアウトもギブアップもない。相手の息の根を止めるまで果てしなく続くデスマッチのみ。このまま野放しにしておくと、リング上で命を奪われる超人が後を絶たなくなる。そこで宇宙超人委員会は、連中の超人オリンピックなど公式大会の参加資格を剥奪。しかし、奴らの暴走による被害は拡大する一方で、我々は宇宙警察にも協力を求め、7人の超人界追放を決定したんです。
超人委と警察当局は、総力を挙げて7人の身柄確保に臨んだが――。宇宙警察の元幹部が、匿名を条件に重い口を開く。
「我々は奴らを〝7人の悪魔超人〟と呼んで特別警戒態勢を敷いた。個々の実力もケタ外れで、特に厄介だったのが、首領格のバッファローマンだ。もともと犯歴もなく、パッとしない超人だったが、ある時期を境に狂暴化していった形跡がある」
バッファローマンの来歴は別稿に譲るが、捜査記録を紐解くと、過去に彼と戦って命を落とした超人は900人とも1000人ともいわれ、被害者が増えるにつれ、彼の蛮行は宇宙警察の手にも負えなくなっていったという。元幹部が続ける。
「結局、7人を拘束するために、延べ10万人もの超人を動員することになった。そこまでやって、ようやく〝超人ホイホイ〟に閉じ込めることができたんだ。そして、もう二度とシャバに戻ってこられないよう、ホイホイごと宇宙空間に永久追放したはずだった。ところが、キン肉マンのV2パレードがあったあの日、なぜかホイホイの解除スイッチが作動し、投獄されていた7人が外に放出されてしまった……」
偶発的だったとはいえ、キン肉マンが押してしまったのは、そんな核爆弾ボタンにも等しいスイッチだったのだ。自由の身となった7人の悪魔超人は、真っすぐ地球にある日本国を目指した。奇しくも、彼らの標的は、脱獄のきっかけを生んだ張本人こと、キン肉マンでもあった。
(#2へ続く)
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班
#2 〈ミートくんバラバラ事件〉不穏な破壊音と同時に体が裂け、四方に飛び散った…「生きたまま分解し、悪魔超人7人で7か所に拉致した奇怪な人質事件です」と宇宙警察〈『キン肉マン』特別企画〉
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