「受益の全世代化」でなく「負担の全世代化」が必要

前記のように2019年に財務省が支給開始年齢の引き上げ問題を提起したが、その後政府は、「全世代型の社会保障改革」を進めるとし、「あらゆる世代が社会保障制度から利益を得る」という面を強調するようになった。つまり、「受益における全世代化」だ。

しかし、社会保障が実現する世代間移転の基本的な姿は、「若年者が負担し、高齢者が受益を受ける」ことだ。この逆のパタンの世代間移転は、あまりない。今後も、そうしたものが生じるとは考えにくい。

日本の社会保障制度が直面している問題は、負担者である若年者人口が減り、受益者である高齢者人口が増えるために、社会保障制度の維持が難しくなることだ。

これに対処するため、高齢者の受益額の減少、ないしは負担額の増加が求められている。

これは、年齢構造の変化からどうしても必要とされることだ。

だから、あえて「全世代」という言葉を使うなら、いま必要とされていることは、「負担の全世代化」である。

ところが、それは、政治的には不人気なことだ。

しかし、それをあえて実行しなければならない。社会保障改革は、人気取り政策にはなり得ないのである。それを、「全世代型社会保障」という曖昧なキャッチフレーズで覆い隠してはならない。

鬼の岸田政権・政府は国民を70歳まで働かせる準備を進めていた…虚構の実質賃金伸び率の上に立つ年金制度は破綻寸前_2
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2024年の財政検証で、支給開始年齢の問題を提起すべきだ

支給開始年齢の引き上げは、いつ行なわれるだろうか?

最も早くは、65歳への引き上げが完了する2025年からだ。このためには、2024年の財政検証においてこの問題が提起されなければならない。

しかし、支給開始年齢引き上げには大きな反対が予想されるので、来年時点でこのような大問題が提起されるとは考えにくい。

ただし、この問題はいつまでも放置するわけにはいかない。

前述のように、支給開始年齢が現在のままだと、厚生年金の積立金は2040年頃には枯渇すると考えられるからだ。

したがって、遅くとも、支給開始年齢引き上げは、2040年までには完了している必要がある。

70歳までの引き上げであるとすれば10年間かかるので、次の次の財政検証時点である2029年に、この問題が提起されなければならない。

ただし、2024年の財政検証において、この問題にまったく触れなくてよいわけではない。

これまで指摘してきたように、現在の財政検証は、高すぎる実質賃金伸び率という虚構の上に立っている。虚構ではなく、経済の実態に即した真摯な見通しが示されるべきだ。

文/野口悠紀雄 写真/shutterstock

#1『年金給付が保険料収入を大幅に上回る2040年…支給開始年齢の引き上げは不可避なのにいつまで先送りするのか』はこちらから

#2『2040年代前半に厚生年金は破綻する…単年度の赤字が10兆円を超し、積立金が枯渇! 支給開始年齢の引き上げは急務というが‥‥』はこちらから

『プア・ジャパン 気がつけば「貧困大国」』 (朝日新書)
野口 悠紀雄 
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<目次>
第1章 気がつけば、「プア・ジャパン」 
第2章 昔はこうでなかった
第3章 これから賃金は上がるのか?
第4章 増大する財政需要と政治家の無責任
第5章 デジタル化の遅れが日本の遅れの根本原因
第6章 高度人材を日本に確保できるか?
第7章 日本再生のエンジンは、デジタル人材 
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