千奈ちゃんと接した最後の朝
1年前の9月5日、河本さんはベッドで眠る千奈ちゃんの寝顔を見て「行ってくるね」と声をかけ、朝7時30分ごろ出勤した。千奈ちゃんはふだんから寝相が悪く、この日も枕のほうに足を向けて逆さまに寝ていて、それがとても微笑ましく印象に残っているという。
「これが僕が千奈と接した最後でした。その後、8時ごろ妻が起きて朝食を食べさせています。歯を磨き、顔を洗い、妻が髪を三つ編みに結ってあげて千奈を幼稚園の送迎バスに送り出しています。幼稚園が大好きだった千奈は送迎バスが到着すると、妻が持っていた幼稚園のバッグを自分から持ち、送迎バスに乗り込みました」
4月から幼稚園に通っていた千奈ちゃんだったが、この日もいつも通りの朝だったと河本さんは振り返る。しかし、14時過ぎ、職場にかかってきた妻からの電話で状況は一変する。
「会社に電話が入り、受話器をあげようとしたら妻の番号が表示されていて『あれ、どうしたのかな』って最初は思いました。電話に出ると『千奈ちゃんがバスの中で置き去りになって、救急車も来てるみたいだからあなたも帰ってきて』と言われました。
妻は気が動転している様子でしたが、僕はまだこの時は千奈は熱中症になった程度だと思っており、大丈夫かな、くらいに思っていました」
会社の駐車場で川崎幼稚園に電話を入れると対応したのは元副園長だった。「河本です」と告げ、とにかく千奈ちゃんの様子を聞きたかったので、まず安否を尋ねたのだという。
「元副園長は何も言わなかったんですよね。『千奈は大丈夫なんですか』と尋ねても。その様子に僕もなんだかざわついてきて……。気づいたら『千奈はどうなったんだっ。言えっ』と怒鳴っていました。
元副園長は泣きそうな様子で『はい。心肺停止です』と言いました。もう気が動転して車の中で怒鳴り続けていました」