変わらない「上昇婚志向」
女性の社会進出が進んだ’90年代後半〜’10年ぐらいまで、「高年収の女性は、男性が敬遠するので結婚しづらい」といった噂も囁かれていました。
ですが、アナリストでリクルートワークス研究所研究員の坂本貴志氏によれば、「キャリア女性、すなわち年収が高い女性が結婚できないというのは、少なくとも現代においては風説に過ぎない」とのこと(’18年同「リクルートワークス研究所サイト―少子化はキャリア女性のせい?」5月23日掲載)。
たとえば、女性で年収500万円以上の層は、圧倒的に「未婚」に多いのですが、おそらくその最大の理由は「高年収女性が結婚できない」からではなく、「結婚(出産)した女性が、少なからず(非正規に雇用転換するなどして)年収500万円未満の働き方を選択するからではないか」と想像できます(’22年内閣府「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」)。
また、リクルートワークス研究所が、未婚男女の年齢・年収別に「向こう1年間で結婚に至る確率」を計算した数値も、先の〝風説〞を否定します。年収が上がるにつれて結婚確率も上がる「高収入プレミアム」は、男性ほどではないものの、女性においても明らかで、年収増につれて結婚確率もほぼ上昇するのです(図表9)。
おそらく背後には、キャリア女性ほど異性との出会いのチャンスが多い、あるいは男性側が結婚後のことも考えて「収入の高い女性」を進んで選んでいる可能性もあるでしょう。
先の「第16回出生動向基本調査」を見ても、男性が結婚相手に「経済力」を求める割合は年々増加しており、’21年時点で約5割(48.2%)にものぼっているのですから。また、先の民間(リンクバル)の調査を見ても、結婚相手の女性に「年収300万円以上」を求める男性が、既に5割以上もいるのです(図表1‐12)。
一方で、坂本氏は「女性の保守的な思想こそが、未婚率を上昇させている」とも言います。なぜなら、彼の研究や同研究所の統計分析においても、女性は年収200万円台であろうが、500万円以上であろうが、自身の収入未満の男性とは、まったくと言っていいほど結婚していないからです。
山田教授は、生活レベルや社会的地位の上昇を目的に、経済力が高い異性を結婚相手に選ぶことを「上昇婚志向」と定義しましたが、「均等法改正以降、これほど長きにわたって女性の『上昇婚志向』が変わらない(減少しない)とは思ってもみなかった」そうです。
背後にあるのは、「『仕事の劣化』ではないか」とのこと。仕事に楽しさや憧れを抱きにくい社会だからこそ、上昇婚に期待をかけてしまうのではないか、といいます。あるいは、一部のキャリア女性においては「(将来の)妻が夫より稼いでいると、夫も肩身が狭く感じるのではないか」など、過度に気を遣ってしまっているのかもしれません。
文/牛窪恵 写真/shutterstock
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